著書『 女たちのポリティクス』で世界の女性政治家について記したブレイディみかこさん。 女性たちが気持ちを表に出して、新しいものを創り出す可能性を語ってくれました。
ライター・ブレイディみかこさん
女性たちが置かれている状況に疑問を持って、もっと話し合えばいいと思います。
非正規雇用の女性の解雇や母子家庭の困窮。コロナ禍は日本社会のさまざまな問題、特に女性の置かれた厳しい状況を浮き彫りにしました。「いま、日本の女性の怒りはふくらんで、ちょっと押したらぼーっと吹き出してくるのではないでしょうか」
多くの支持を得た『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著 者・ブレイディみかこさんはそう言います。日本を離れて四半世紀。イギリスに根を張り、その政治や文化を体験し、考えてきました。
「私は自分が思っていることははっきり言いたい性格。 言いたいことを飲み込んでとか、彼氏の言うことには女性は反論しないとか。問題があっても、その場の空気を壊さないように、まあまあと流してく。そういう日本的なやり方は合わないんです」
イギリスでは若者も大人も政治についてパブで侃侃諤諤の議論をしているし、周囲で問題があったらみんなでそれについて話し合う土壌がある。そんな国柄に接して、自分もちゃんと勉強して、意見を持たなくては、と痛烈に思ったそう。
そうして見えてきた日本の矛盾。アイルランド人の夫と結婚し、 一人息子を持って経験した当地での実感。それらが文章の土台になりました。
「昔、『床屋政談』といって、床屋さんで近所のおじさんたちが世間のことをあれこれ話す場になっていたといいますよね。私は日本の女性たちが普通に社会とか政治についてお喋りして、『美容院政談』をするようになればいいと思います。今の日本にある問題、女性たちが置かれている状況に疑問を持って、もっと話し合えばいい」
そのためのヒントになるような提案。社会や世間にそれはちょっとおかしいのでは、と一石を投げかけるような文章を書いていくことが、ブレイディさんの目指しているところ。
「現状を常に疑って、おかしいことがあったら、ないことにしないで話し合う。必要なら今まであった制度を壊して、新しいものに作り替えていく。対立や葛藤が生まれてきついこともあるけれど、言いたいことをお互いに言い合うって、気持ちがいいことだし、世の中を変えるチャンスにもなるって私は思っているんです」
ブレイディみかこ
ライター、コラムニスト。
1965年福岡県生まれ。音楽ライター、保育士などを経て文筆業に。 著書に『女たちのポリティクス台頭する世界の女性政治家たち』(幻冬舎新書)、『他者の靴を履くアナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)。
『ku:nel』2021年9月号掲載
取材・文/船山直子