日本をはじめ世界中で愛される、ムーミンの原作者として知られるフィンランドの作家トーベ・ヤンソン。自由を求め続けた彼女の半生と、知られざるムーミン誕生の舞台裏を描いた映画『TOVE/トーベ』が、公開中です。
舞台は1940年から1950年代のフィンランド。トーベ・ヤンソンは彫刻家の父、挿絵画家の母を持つ芸術一家に生まれ、画家としてキャリアをスタート。第二次世界大戦中に不思議なムーミントロールの物語を描き始めましたが、イラストをアートとは認めない厳格な父と衝突。そんな父から逃げるように、爆撃によって廃墟のようになったアパートの一室を借りて、本業の絵画制作に打ち込んでいきます。
芸術家の仲間と交流するなか、さまざまな運命の出会いが。特に恋人となる政治家、作家、ジャーナリストのアトス・ヴィルタネン、女性の舞台演出家・ヴィヴィカ・バンドラーは、彼女の仕事にもプライベートにも大きな影響を与えていきます。
長年トーベを支え、ムーミンの連載を勧めたアトスは、スナフキンのモデルに。またトーベと初めて激しい恋に落ちた女性・ヴィヴィカは、ムーミンの舞台を成功させ、トーベが舞台芸術の仕事をするきっかけを作ります。当時のフィンランドでは犯罪とされていた同性愛を隠すため、お互いをトーベの頭文字「To」からトフスラン、ヴィヴィカの「Vi」からビフスランと呼び合い、ムーミンに登場する仲良し2人組、トフスランとビフスランのモデルになりました。2人とも、恋人関係を解消した後も生涯にわたって友情が続いたというのも、トーベの人柄が伝わってくる気がします。
終盤には、トーベが人生をかけて愛したパートナーで、グラフィックアーティストのトゥーリッキ・ピエティラとの出会いも。彼女もムーミンに登場するトゥーティッキ(おしゃまさん)のモデルになっています。
この映画を観ると、ムーミンの物語は自由を求め、自分らしさを追求したトーベの人生から生まれたことがよくわかります。劇中に「人生は素晴らしい冒険」というトーベの台詞があるのですが、人生も仕事もやりたいことを諦めない姿勢からは、きっと勇気をもらえるはず。ムーミンファンはもちろん、多くの人に観ていただきたい作品です。
TOVE/トーベ
監督:ザイダ・バリルート
脚本:エーヴァ・プトロ
音楽:マッティ・バイ
編集:サム・ヘイッキラ
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2020年/フィンランド・スウェーデン/カラー/ビスタ/5.1ch/103分
スウェーデン語ほか/日本語字幕:伊原奈津子/字幕監修:森下圭子
レイティング:G/原題:TOVE
新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー
配給:クロックワークス
取材・文 赤木真弓