“おんせん県”というニックネームどおり、数々の名湯を抱える大分県。とりわけ全国的にも名高い温泉地・由布院を訪ねました。温泉以外にも、美しく使いやすい器の産地でもあることをご存知ですか?
この由布院に魅了され、移り住んで終のすみかとされる方も多くいるのだとか。 大分市出身で約15年前に由布院へ移住し、由布岳の麓に工房を構える陶芸家の林裕司さんも、その一人です。
「由布院は、歴史を振り返ってみても分かるんですが、常に外から入ってきたものを受け入れる土地柄なんですよね。人も、文化も、器もみな。そんな懐深い由布の人たちとの出会いがきっかけで、僕自身、導かれるようにこの地にやってきました」
林さんの『蛟龍窯(こうりゅうがま)』は、天草や信楽の土に、白や黒の御影石を混ぜて作陶するのが特徴の一つ。どっしりと見えますが、実は軽くて丈夫。「材料には特にこだわっているわけではないんです。それよりも、土と石、それぞれの表情をどう出すか、配分を考えながら作ることが大事で。季節や天候、湿度によって土は変わりますから、日々実験のような感覚でもあるんですよね」
林さんの作品には、ハンドル(取っ手)のついたものが多く見られます。「僕の作品は普段使いできることが基本。これは、僕が修業してきた熊本の小代焼や、 高校時代、兄に連れられ感銘を受けた日田の小鹿田焼 、 福岡の小石原焼のような“民衆のための器”という価値観からも影響を受けています。毎日使ってもらいたいから重たいのはダメ。そして、使う人の手に馴染むものでなくちゃならない。ハンドルは、持ちやすさの象徴的なデザインでもあるし、“つながる”というシンボリックな意味も込めているんです」
実際にハンドルに指をかけてみると、逆にハンドルが指を握り返してくるような感覚が。「人それぞれ、しっくりとくる感触って微妙に違うんです。あるだけ試してみてください」。
気がつけば自分の指にしっくりくるものは2つほどに絞られ、見た目だけでは探し出せない、自分だけの器に出会うことができました。
机に打ちつけながら捏ねた石土をろくろに置き、器づくりに向き合う林さん。風が止んだかのように、ろくろの回る音だけが静けさの中に響きます。「懐の深い由布院という土地がそうであるように、僕が作る器も型にはまらず自由に受け入れながら作っていきたいんです。そして、使う人にとって実用性があって、温かい器であってほしい、という願いを込めて作陶しています」
工房兼ギャラリーの蛟龍窯では、器の購入ができるほか、陶芸体験も可能。気さくなお人柄の林さんが丁寧に指導してくれます。要予約。
蛟龍窯/こうりゅうがま
住:大分県由布市湯布院町川上884-3
電:0977-84-3958
営:10:00〜17:00
休:不定休
由布院温泉観光協会
由布院温泉へ旅行される方へ、行きたい場所へのご案内やワークショップの予約などを由布院温泉観光協会がお手伝いいたします。まずはお電話を。
◎由布院温泉観光協会 /0977-85-4464
◎旅くらす/090-1753-6416
写真・文 神保亜紀子