【映画好きの3本/きしくりさん】日常から離れた世界、美意識を挑発され”はまってしまう”映画。
各界の映画好き著名人がそれぞれの視点でおすすめの映画3本を紹介する「映画好きの3本」。今回は画家・アーティストのきしくりさんのおすすめをご紹介します。
衝撃を受け、その世界にはまった、懐かしくも新鮮な3作品。
「普段体験できない景色、音、色、形……。日常から異次元に連れて行ってもらえる映画に惹かれます。美意識を挑発され、はまってしまえるのが喜び」
きしくりさんの琴線に触れ、「はまった」1作目は『グラン・ブルー』です。
「 40年近く前! 公開最終日は長蛇の列でした。なぜか女優、編集者、ミュージシャンと不思議なグループで観に行ったんです。初対面の女優さんと2人、最前列で、気づくと大号泣していました」
フリー・ダイビングの世界を美しく描き男・男・海・女の絆と愛が交錯……。
「男たちの絆の世界に結局、女は入れないのかと切なかったのもあるし、深海がロマンティックに描かれていて。エリック・セラの音楽とともに海の底に連れていかれるような感覚の虜になりました。 サントラCDを入手して毎日のように聴いたものです。今でも作品を描く時には、よく流しています」
1_『グラン・ブルー』
素潜りチャンピオンのエンゾが見出したジャックという若き天才はどんどん記録を塗り替えていく。エンゾはジャックを再び超えようと危険な潜水に挑んで……。日本初公開時は『グレート・ブルー』という題名だった。監督/リュック・ベッソン 出演/ジャン・レノ、ジャン・マルク・バールほか 1988年
写真 Aflo
音に乗せて映像が作られた?と思うほどの音と絵のマリアージュが肝心だそう。
「それは約 20 年前に観た『マリー・アン トワネット』も同じで。完全にはまって映画の美術にインスパイアされ敬意を表し、制作の中でオマージュに挑戦。レースやスイーツのディテールを閉じ込めるような精緻な絵を描いたことがあります。美しいヴェルサイユの人々のマカロンカラー、パステルトーンも大好きです」
でもただ目や耳を楽しませる映画に傾倒したのでもなく、きしさんの心は別の方向からも映画を求めていたようです。
「どこか自分の、日常から解放されたい願望を映画の中にも見ているのだと思います。アントワネットは豊かながらも政略的に人質のような立場にあり抑圧されていて、その抵抗、わずかな解放のために贅沢に走ったのですし。『グラン・ブルー』は無音の世界にダイブしたい気持ちそのものが解放願望なのではと」
2_『マリー・アントワネット』
ハプスブルク家からフランス王家に嫁ぎ、革命のなかに生涯を閉じた王妃マリー・アントワネットの孤独な半生を描く。ヴェルサイユ宮殿ロケを敢行し、衣裳、ヘアメイク、小道具のスイーツ……さまざまなビジュアルも話題に。監督/ソフィア・コッポラ 出演/キルスティン・ダンストほか 2006年
写真 Aflo
3本目は原題『THE FALL』、『落下の王国』でした。
「よくベランダからずーっと空をみあげて、『空に落ちる』妄想をしている子どもでしたが、この映画の予告編を観た時は衝撃で。もしかしたらこの妄想に繋がるのでは?と妄想を逞しくして、一人で映画館に走ったんです」
インド出身の監督が衣裳に石岡瑛子を迎え、世界中の絶景のなかでオールロケをした寓話的な作品。
「実際は落下というテーマ性に何かを感じる前に、独特の映像の世界にダイブしていました。色彩、ロケ地、画角、スケール感、完璧に計算し尽くされ妥協がなく、シーンごと目に焼き付けたくなる。広告業界出身の私には、何か一つの理想の『切り取られた世界』でした。ものづくりの繊細さも秀逸で、独り占めしたいとDVDを購入、制作する時に流していました」
はまれる感覚は年齢を重ねたからこそ、大切にしたいもの。
「自分の琴線にたしかに触れるものに囲まれ感性を潤わせたいですね。そういう映画にまた新しく出会えれば最高です」
3_『落下の王国』
PROFILE
きしくり
画家・アーティスト
広告、雑誌の世界ではイラスト、立体オブジェで活躍。現在は絵画に留まらず、『CASUCA』や『きものやまと』、今井美樹ほかアーティストとのコラボレーションや小泉今日子、安野ともこ他メンバーと『東京ヴィンテージガールズ』の活動も。
『クウネル』2026年9月号掲載
写真/玉井俊行、取材・文/原 千香子
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