やさしさがあふれ出す、ドラえもんとのび太の言葉。作家・岸田奈美さんが7つをセレクト

世代を問わず人気を博すドラえもんは、ひみつ道具だけでなく、温もりを感じる言葉の名手!生粋のドラえもんファンである作家の岸田奈美さんにおすすめの言葉を選んでいただきました。
目 次
ドラえもんの大ファン!作家・岸田奈美さんインタビュー
泣いてしまったドラえもんの話があります。亡くなったおばあちゃんにのび太が、タイムマシンで会いに行くという名作(ドラえもん第4巻「おばあちゃんの思い出」)です。
のび太が未来から来たことを「信じてくれるの?」と聞くと、おばあちゃんは「だれが、のびちゃんのいうこと、うたがうものですか。」と。無条件で信じてくれる人って小さいときにいたなー、大人になるとそういう人っていなくなるなーって。
そんなふうに置き忘れてきた大事なものや、自分が愛されていた記憶は人が生きるための力になる。どんなに世の中が変わっても、私の人生が波乱にまみれても一番大事なことってそれだよねって気づかせてくれる。
生きていくうえで大事にしたいことを、ドラえもんや周囲の人たちがのび太に語り掛けているんです。私は言葉そのものよりも、前後のストーリーも含めてそれぞれの思いを想像して、温かさを感じお守りにしています。心がどんなにぐちゃぐちゃになっても、大事なもの、忘れていたものをもう一回取り戻して心の真ん中に置いてくれる、それがドラえもんです。
言葉1_のび太の明るさは強い!

言い訳をしてグダグダしているのび太へのドラえもんの一言。
「ドラえもんぽい言葉。現代は、この先どうなるかわからない不安や、困りごとにも格差がありすぎて全員に共通する解決策がない。信じられるのは何が起きても明るく生きる!それだけだと思います。のび太は気持ちを明るく持っているから、最終的にはうまくいくんでしょうね」(岸田さん、以下同)

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まぶたがピクピクするのは嫌なことの前ぶれだというのび太。ドラえもんは気分転換に外に連れ出そうとするが、のび太は虫の知らせだと言って動かずマンガを読む。そして、いいことばかり書いてある星占いに喜び外出。ドラえもんは予感を現実にする『よかん虫』を取り出し、よかん虫がのび太の頭に……。てんとう虫コミックス『ドラえもん』第12巻 よかん虫/小学館
言葉2_お説教とは違う、気づきと納得。

パパのいろいろな姿を見たふたりの言葉。
「大人は甘えたり叱ってくれる人がいないから、天狗になったり偉そうになったりする。大人だってぐらぐらしていて、二本足でギリギリ立っている。本当はよりかかりたい。そんな全然違うところから大人を見るのび太とドラえもんの言葉、やさしいですよね。嫌われているイヤな大人にも救いを与えている。人のさみしさとか悲しさに気づけることから、やさしさは生まれるのでしょうね」

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ある夜、のび太のパパが酔っぱらって帰宅。玄関で大騒ぎするパパにあきれたママは怒って先に寝てしまう。そんなパパの姿を見たのび太は、パパのママ、おばあちゃんにパパを叱ってもらうことを思いつく。酔いつぶれて廊下で寝入ってしまったパパを『タイムマシン』に乗せ、おばあちゃんが元気だった時代に……。てんとう虫コミックス『ドラえもん』第16巻 パパもあまえんぼ/小学館
言葉3_人を愛することってこういうこと。

大型台風が迫り、身を挺して台風から日本を守り消えたフー子を思っての言葉。
「パートナーや愛犬や愛猫を亡くした方たちに届く言葉だと思います。ものすごく愛し愛された存在がいなくなるのは絶望的で悲しい。ただ、代わりにその人を思う瞬間がある。私は高校生のとき父を亡くして本当に寂しかった。でも、ふとしたときに『ここと似た場所にお父さんがつれていってくれたな』と思い幸せを感じる。人を愛するってこういうことかな」

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しずかちゃんに懐いているペットの文鳥を見て、卵から生きものを育てたいと言い出すのび太。ドラえもんはポケットから卵をひとつ取り出す。のび太が卵を温めるとかえったのは、小さな台風の子ども。『フー子』と名づけ、上昇気流のエサをあげたり遊んだりとかわいがる。ところが成長するにつれ力が大きくなり……。てんとう虫コミックス『ドラえもん』第6巻 台風のフー子/小学館
言葉4_大事なものを守るとき感情で動く、それが人間。

地球侵略のためにのび太たちを何度も撃とうとしたリルルが壊れ、一晩中看病をしたしずかちゃんの言葉。
「しずかちゃんもわからないんですよ、なんで助けるのか、理屈に合わないことをするのか。それは感情でしょう。なんで感情が動くのか。自分の中の大事なもの、家族から受けた愛とか大事なものを守るためには、感情が高ぶり理屈に合わないことをしてしまう。これは人間の愚かさだけれど、それさえも許してくれるのが藤子先生」

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ある日偶然、ロボットの部品を見つけたのび太たち。あまりにも大きかったため『入りこみミラー』で鏡の中に入り組み立てる。鏡の世界は現実と左右が逆、人間も存在しない。のび太たちは完成させたロボットをザンダクロスと名づけ遊んでいたがその持ち主のロボット・少女リルルと出会い返すことに。しかしリルルたちは地球侵略をプログラミングされていて……。てんとう虫コミックス『大長編ドラえもん』Vol.7 のび太と鉄人兵団/小学館
言葉5_生きているだけでいい、芯を褒められるうれしさ。

結婚式前日、結婚をやめると言い出したしずかちゃんにパパが伝えた言葉。
「人の幸せを願い不幸を悲しむことができる、それはやさしさです。人にとって一番うれしいのは、頑張ったとか、何か成功して積み上げたとかを褒められるよりも、自分の中の芯みたいなものを褒められたとき。生きているだけでいいと言われたようなものですからめちゃくちゃうれしい。のび太はこの喜びがあったから、そのまま成長できたのではないかな」

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しずかちゃんと出木杉君が白雪姫のお芝居の稽古をしているのを見かけたのび太は大ショック!将来、本当にしずかちゃんと結婚することができるのか、不安になってしまう。「そんなに心配なら、『タイムマシン』に乗って結婚式を見てきたら?」とドラえもんにすすめられたのび太はドキドキしながら、未来の自分の結婚式をたしかめに……。てんとう虫コミックス『ドラえもん』第25巻 のび太の結婚前夜/小学館
言葉6_人生のいろいろなことが楽になる!

のび太、スネ夫、しずかちゃんでママを取り換えてみたら、どのママもやさしいとわかったときののび太の言葉。
「これに気づくと、人生のいろいろなことが楽になりますよね。どの親だって初めて親をやる。子どもも未熟だし親も未熟だと気づけば、結構たくさんのことが前向きに諦められると思います。親だって人間、完璧じゃないから、合理的に動くわけないじゃんって。親のことを許している言葉、気づくのは自分が親になったときですかね」

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ママから厳しく叱られ、泣き出すのび太。ドラえもんと外に出ると、同じようにママに叱られたしずかちゃんとスネ夫に出会う。自分のママの不満を話す3人を見たドラえもんは「しばらくママをとりかえっこしてみたら?」と言い『家族合わせケース』を取り出し実行……。てんとう虫コミックス『ドラえもん』第3巻 ママをとりかえっこ/小学館
言葉7_ものすごくつらいとき、つまずいたときのお守り。

45年後ののび太が、小学生ののび太に贈る言葉。
「のび太がどういう道を進むかはわからない。何度もつまずくけど立ち直るからって、これ以上の応援の言葉はないと思う。そのままでいいよ、君の決断や選択は間違ってないよ。失敗することも全部肯定して、その度に立ち上がればいい。それは人としての強さ。一番ほしいのって、自分で何とかできるという強さだと思うから。つまずいたときにお守りになる言葉です」

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立派な大人になるためちゃんとした生活を送ろうと一大決心したのび太。しかし、みんなからどうせ3日坊主とバカにされやる気を失う。そんなとき、見知らぬおじさんが親しげに話しかけてきた。驚いたのび太が「誰?」とたずねると「45年後のキミだよ」。そのおじさんこそ未来ののび太。小学生ののび太と1日だけ入れ替わりたいと言い『入れかえロープ』を使う……。てんとう虫コミックス『ドラえもんプラス』第5巻 45年後/小学館
PROFILE
岸田奈美/きしだ・なみ
作家 33歳
100文字で済むことを2000文字で伝える作家。大学在学中にミライロの創業メンバーとして加入、10年間広報部長を務めた後noteに投稿した記事が話題を呼び作家として独立。2020年初の著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を出版。
ドラえもん
2112年9月3日生まれ。のび太の孫の孫セワシ君に頼まれ22世紀からやってきたネコ型ロボット。おなかの四次元ポケットから未来のひみつ道具を出してのび太を助けてくれる。
発売中の『クウネル』7月号では、印象的な「言葉」がたくさん
『クウネル』2025年7月号掲載 写真/玉井俊行、取材・文/河田実紀