美しい絵本の中で 一生ものの言葉と出合う。作家・江國香織さんが大切にしている3つの言葉

あさになったので まどをあけますよ

子どものときに出合って心の奥深くに刻まれたあの言葉。大人になって、自ら選んだ本の中で巡り合った忘れがたい文章。絵本に書かれた美しく印象的な言葉は、読者の心にずっと寄り添い続ける人生の宝物です。絵本好きの作家 江國香織さんに聞いた珠玉の言葉集です。

心の奥深くに眠る言葉が、不意に現れてくる不思議。

\言葉1/
『あさになったので まどをあけますよ』 荒井良二作/偕成社より

あさになったので まどをあけますよ

『あさになったので まどをあけますよ』
あさになったので まどをあけますよ

あさになったので まどをあけますよ 表紙

『あさになったので まどをあけますよ』

荒井良二 作/偕成社

絵本のノーベル賞ともいわれるアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受けた絵本作家・荒井良二の代表作のひとつ。「ともかく、タイトルの言葉が素晴らしい。『あけよう』ではなくて『あけますよ』と、誰かに呼び掛けているのが大好きなのです」(江國さん)

自身も絵本の創作や翻訳に携わってきた江國香織さん。幼いころから絵本は身近で、欠くことができない存在でした。

「小さいころは好きな物語の中へ体ごと入っていって、登場人物たちは本当の友だちのようでした。大人になってもうそういう読み方はできなくなったけれど、ふとしたときに絵本で見た風景や言葉がよみがえってきて、はっとします。普段は忘れていますが、絵本の世界は私の中で血肉化されているんでしょうね」

\言葉2/
『ふたりはともだち』「おてがみ」アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳/文化出版局


ふたりはともだち

「ああ、」がまくんが いいました。
「とても いい てがみだ。」
それから ふたりは げんかんに でて
てがみの くるのを
まって いました。 

ふたりはともだち 表紙

『ふたりはともだち』「おてがみ」

アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳/文化出版局

1970年代に出版されたロングセラーで、本書以外に『ふたりはいっしょ』など全4冊のシリーズ。三木卓の訳も素晴らしい。同作を元にしたミュージカル『A Year with Frog and Toad~がまくんとかえるくん』が531日より愛知・大阪・東京で上演。

がまくんとかえるくんというふたりの主人公の友情を描いた絵本も大切なもの。手紙をもらった経験が一度もないがまくんを不憫に思ったかえるくんが、手紙をがまくんに送って……というお話。『ああ、とても いい てがみだ』という一言に込められた、ふたりの互いを思い合う気持ちに心を動かされると江國さん。
「その言葉を聞くと、読んだときの自分の気持ちが喚起される。そういう力を絵本の言葉は持っていると思います」

\言葉3/
『九月姫とウグイス』サマセット・モーム 文/光吉夏弥 訳/武井武雄 絵/岩波書店

九月姫とウグイス

けれども、ねえさんたちは、
まどをあけて、おやすみになることなんか、
一ども、ありませんでしたので、
それはそれは、みにくいかたに、
おな りになりました。 

 

九月姫とウグイス 表紙

『九月姫とウグイス』

サマセット・モーム 文/光吉夏弥 訳/武井武雄 絵/岩波書店

「子どものころに読んで『窓を開けなかったから醜くなった』というくだりが大好きで。窓を開けてウグイスを自由にしてあげた九月姫は美しく幸せな王女様になるんですけれど」(江國さん)。文豪サマセット・モームが書いた唯一の童話作品。武井武雄の挿画がモダン。

PLOFILE

江國香織/えくに・かおり

作家 ・61歳
最新刊に書評集『読んでばっか』(筑摩書房)。翻訳や詩作、童話の執筆でも活躍。「20歳のころ1年間、渋谷の児童書専門店でのアルバイトが楽しかった。がまくんとかえるくんにはそのときに出合いました」 

『クウネル』2025年7月号掲載 写真/久々江 満、取材・文/船山直子

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