沢野ひとしさん・苦しくない、私の片づけ作戦1/「10分間の片づけ」ルーティン化が人生の分かれ道

片づけと人の人生を見つめたエッセイが人気の沢野さん。すっきり整ったアトリエから、片づけが苦手な人たちに知恵をご伝授。

「片づいた家」

誰もがシンプルで快適な暮らしをしたいと願う。できれば部屋から海の見える家。できればコンパクトな高原の家で、初夏の風を受けながらの野菜作りでも……と。

しかしそんなお花畑状態を夢見ても、家が散らかっているといらいらする。近くにお片づけロボットがいるわけでもない。人が暮らすとなると、やはり日々の「片づけ」が待っている。ほったらかしにしていると、やがてリビングもキッチンも寝室も「汚部屋」になってしまう。

いるものといらないものを冷徹に分ける時間と心をもつ。それは大きな一歩。

歳を重ねると終活、断捨離というなんとも恐ろしい言葉が頭をよぎるけれども、まず片づけ!ということで、具体的に私が実践して成果をみている片づけ作戦を伝授したい。

 

老人の朝は早い。夏は4時に起床する。冬は5時と決めている。起きると布団をたたむ。6畳の板張りの床だったので、前はベッドに寝ていたが、ある日「ベッド」が部屋を占領していることに気がつき腹を立てた。

ジジイを怒らせると怖いのだ。おもむろに木製のベッドの解体を始めた。購入した時に組み立てたので、大きなネジを外すと、いとも簡単に分解できた。残骸は車に積んで、市内のゴミ処理場で破棄した。ベッドのない部屋は広々として、窓を開けるとなぜか清らかな気が流れてきた。

では寝る時はどうするかというと、キャンプで使う銀マット2枚に、健康に良いと巷の噂舞う薄いマットを敷き、前に使っていた布団をそのまま着地させる。なんの問題もなく、起きると押し入れに布団セットを収める。

毎日の習慣化がものを言います。朝の空気の中でなら、心も穏やかにしゃっしゃと!

そして朝は元気に目を覚ます。布団を仕舞った後はすぐさま「10分間の片づけ」が待っている。テレビやスマホ、新聞といったものは一切見ることなく。体操するかのように、手足を左右に振って自分の書斎を整理する

前夜に広げた机の上の本や、コーヒーカップを元の位置に戻す。この元に戻すのが、「片づけの基本」である。本もそのまま積み上げてしまうと、その後の思考が錯乱する。必ず元あった本箱にしまう。朝の忙しい人は帰宅した時や、眠りにつく前でも良い。とにかくこの10分間が人生の分かれ道である。

PROFILE

沢野ひとし/さわの・ひとし

イラストレーター・エッセイスト・絵本作家

1944年生まれ。『本の雑誌』創刊の1976年から表紙や本文イラストを担当するほか本、雑誌の挿画、山岳エッセイ等々広いジャンルで活躍を続ける。整理整頓の行き届いたアトリエを訪問した編集者の依頼で、片づけの悲喜こもごもと人生、人間を考察し書いた『ジジイの片づけ』が大きく反響を呼び版を重ねている。『ジジイの台所』『ジジイの文房具』とシリーズで出版が続く。

ジジイの片づけ

ジジイの片づけ』(集英社クリエイティブ)

『クウネル』2025年5月号掲載 文・イラスト/沢野ひとし、編集/原 千香子、プロフィール写真/渡辺達生

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『クウネル』NO.132掲載

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  • 発売日 : 2025年3月19日
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