歌舞伎座で見かけた粋な女性、着こなし以上に美しい姿勢が素敵さの理由?【メロウライフ】

エディターの山村光春さんと、エッセイストの広瀬裕子さんによる往復連載。
「60代以降に使われる『シニア』という呼び方がどうもしっくりこない」という2人が、「私たちらしい人生の後半戦」について模索します。シニアでもなく、シルバーでもなく……。だったら「メロウライフ」なんていかがでしょう?
今回は「身だしなみ」がテーマ。広瀬さんは観劇で「これぞ粋な身だしなみ」という女性と出会ったそうです。
▼山村光春さんの記事
50代エディターが考える身だしなみの肝は、装いから「性格と生活が想像できること」
歌舞伎鑑賞、みなさんの装いを見るのも楽しい
月に1度の歌舞伎鑑賞を楽しみにしています。いまは、お芝居のほか、来ている方たちの服装や身のこなしを見るのも楽しみのひとつです。お客様の多くは、年齢層がやや高め(わたし自身もそうですが)ということもあり、いまの自分とこれからの自分を重ね合わせ、見ることが多くなりました。

入場前からみなさんの着こなしを観察
美しい佇まいの女性に目が釘付けになりました
先日、桟敷席に芸者(芸妓)さんと思われる方がいらしていました。セットされた黒髪、メリハリの効いたメイク、着物の絶妙な襟加減。広い劇場内でその方の周りだけひかりがさしているようでした。芸者さんあの独特のうつくしさは、どこからくるのでしょうね。
その方が何よりすてきだったのは、メイクや着こなしだけではありません。姿勢。そう姿勢です。席に着いた時から観劇中、ずっと背筋がのびているのです。あまり見るのも失礼だと思いながらも、居住まいのうつくしさと清々しさに何度も目をやってしまいました。
幕間の食事の時も姿勢は崩れません。さらに、手には懐紙(どれだけ見ているのか!)。姿勢と所作。うっとりすると同時に改めてそのふたつの大切さを確認しました。
身なりを「整える」身だしなみ
わたし自身が歳を重ねたこともあり、うつくしいと感じるものの基準が変化しています。「身だしなみ」というのでしょうか。
身だしなみという言葉は「周りの人が不快にならないこと」というのが一般的な定義です。漢字では、身嗜みと書きます。嗜みなのです。身の嗜み。どういうことが身の嗜みなのか──思いをめぐらせます。嗜みには「整える」という意味もあります。なんだか、身だしなみは、奥深い世界なのです。

爪の手入れは人形町うぶけやさんのものを使用
シルバーヘアになって、身だしなみの決まりにも変化が
わたしは、シルバーヘアにしたこともあり、髪をコンパクトにまとめるようになりました。お茶のお稽古を再開したので爪は短く(元々短いのですが)ポリッシュはしなくなりました。正座からすっと立ち上がれるように密かに筋トレもしています。この他、これからいくつかメンテナンスしたいところがあります。それは、どちらかというと初歩の身だしみ。ここから先、身だしなみの道はずっとつづいていくように感じています。

外出前にはくちびるの保湿(『DIOR』)跳ねがちな髪の毛(『MiMC』)を押さえて
あのうつくしい芸者さんは、身だしなみにプラス華やかさがありました。40代くらいの方だったので、何十年かの時間があの佇まいを作ったのかもしれません。加えてその日の(坂東)玉三郎さんと(中村)七之助さんの芝居のうつくしいこと! 60代からの身だしなみ。これからのテーマです。

シルバーヘアになってから使いはじめた柘植の櫛と椿油。『上野十三や』さんで購入
voice

最後に書かれている「身だしなみにプラス華やかさ」これ、けっこうキモだなと思います。
身だしなみも過ぎると隙がないように見えて会うと緊張してしまったり、とくに齢を重ねるとまわりが持ち上げてくるので、うっかりつられると親しみを感じづらかったり。
とくに男性は、持ち上げられてほいほいその気になっちゃうことが多ので、気をつけたいと思います。