『ぐるんぱのようちえん』や『anan』創刊を手がけた堀内誠一さんを語る。キュレーター林綾野さんインタビュー

東京・立川のPLAY! MUSEUMにて、アートディレクター、デザイナー、絵本作家の堀内誠一の展覧会『堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE』が開催中。本展のキュレーションを担当したキュレーターでアートライターの林 綾野さんに、展覧会への想いや堀内作品の魅力をお聞きしました。
伝説のグラフィックデザイナー堀内誠一さんの展覧会
―今回の展覧会への想いをお聞かせください。
「2022年より全国を巡回した展覧会『堀内誠一 絵の世界』のキュレーションをした際、主に堀内さんの絵本に焦点をあてました。堀内さんは70冊以上の絵本、そして30冊ほど挿絵を手がけています。さまざまな画材を使い、画風も多様。到底おひとりの仕事とは思えないほど、幅広い方法に取り組み、その表現は変幻自在といえるものでした」

『堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE』メインビジュアル
「そんななかで雑誌のグラフィックデザインやアートディレクションのお仕事もこなされていた堀内さん。あまりにもいろんなお仕事があって…いったい堀内さんが何をした方なのか、一言で説明するのは難しいと思っています。ですが、たとえどんな仕事であっても、手に取る方のことを考えて制作されていたことには違いありません。新しくて面白い、みんながワクワクするようなことを伝えたかったんじゃないか、と」

「堀内さんが生きた時代は、戦後の大変なとき。そのなかで常に新しいことに取り組んで、世界を変えてきました。堀内さんが残してくれたものを私たちが受け取って、この先に繋げていけるのではないかと。作品を楽しんで味わっていただきながらも、今の私たちがこれから生きていくための糧になっていくような展覧会になったらと思っています」

『ぐるんぱのようちえん』ほか、9つの名作絵本を紹介
―堀内作品の幅広さと魅力を伝えるため、「FASHION」「FANTASY」「FUTURE」という3つのセクションで構成された本展。3つの展覧会を同時に楽しめるようなユニークな構成ですよね。見どころを教えてください。
「まずFANTASYでは、堀内さんが手がけた9つの絵本作品をピックアップし、巨大絵本をはじめ、原画や映像などで堀内さんの世界に没頭することができます」

会場中央に広がる『ぐるんぱのようちえん』のゾーン。3メートル超えのぐるんぱ像がお出迎え。
「堀内さん自身がファンタジーに魅了され、その魅力を私たちに伝えてくれたと思います。例えば『もし宝くじに当たったらどうしよう?』とか『宇宙に行くことができたらどんなだろう?』と、誰もがいろいろな空想をしますよね。堀内さんはとあるインタビューで、『そうした空想も含めて、絵を描くことで“見えないものを見えるようにする”』というようなことをおっしゃっていたんです。空間全体でファンタジーを感じていただき、心にあるものの大切さに気づいていただけたらと思います」

雑誌『anan』を通して、新しい世界を伝えようとしていた
―創刊当初の『anan』の世界観に浸ることができるFASHIONも、ものすごい見応えでした!
「アートディレクター、グラフィックデザイナーとして、1950年代から雑誌のお仕事をされていた堀内さん。その膨大なデザインの仕事のなかから、創刊から49号までを手がけたファッション雑誌『anan』にフォーカスをあてました」

壁沿いには、26号を全ページ展示。一冊まるごと読むことができます。
「ビジュアルの魅力だけではなく、考え方や気持ちまで込められたお仕事だなと感じます。当時の『anan』は、時代を創り、前進していく力になったのではないかと思います。堀内さんは、まだ誰も見たことのない新しい世界を見せていこうとしていました。例えば、パリやロンドンの街中で、モデルの立川ユリさんが金子功さんがデザインした一点ものの洋服を着ている情景。これを見た多くの人が『こんなにワクワクする世界があるんだ。行ってみたい!』と、イマジネーションを広げていたと思うんです」

「堀内さんは『その気になれば世界はもっと広いし、面白いこがたくさんある。違う自分にもなれる』という可能性を『anan』に託したのかなとも思います。そうやって『anan』が始まって、時代によって形を変えながら、今を生きている私たちの時代に繋がっています」
―だから展覧会の最後は、FUTUREなんですね。
「本展は3つの展覧会で分かれているのですが、全部繋がっています。FUTUREは、さまざまな方がいろんな作品を推薦してくださいました。堀内さんのお仕事には、先に紹介した絵本や雑誌以外にも、まだまだたくさんあります。推薦者の方の眼差しを通して、堀内さんの作品の多様さや仕事の密度を感じていただけると思います。そして同時期に真逆の雰囲気の作品を手がけていることもわかる構成になっているので、その超人ぶりに驚かれるはずです」

FUTUREでは、生前の堀内さんと関わりがあった方や、堀内さんに影響を受けた方など、総勢110名が推薦する堀内作品とコメントがずらり。
おすすめの展覧会グッズ
−林さんは堀内さんのクリエイティブのなかで、いちばん好きな作品はありますか?
「ひとつに絞るっていうことは非常に難しいことではあります(笑)。デザインなら、ポップで躍動感のある世界観が大好きです。また絵本であれば、子どもが描いたようなラフさ、その中にある洗練された世界。表現力の素晴らしさ。堀内さんの世界を全体的に愛してやまないんです。なので、本展に合わせてこの本を作りました」

『世界はこんなに 堀内誠一』(ブルーシープ刊)©Seiichi Horiuchi 撮影:植本一子
「雑誌のレイアウト、絵本の原画、挿絵の原画、堀内さんが撮られた写真や手紙まで。全4章でちょうど100点収録されています。雑誌『BRUTUS』について、創刊号を手がけた編集者・石川次郎さんから当時のお話を伺って入れた写真もあります。好きな作品はたくさんありますが、心を鬼にして作品を厳選しました」
「そして、堀内さんご自身の言葉も添えました。作品の魅力を深めたり、堀内さんのデザインへの考え方を知っていただけるもの、堀内さんの想いをふっと感じられる言葉を選びました。この本を作ることを通じて改めて、いろんな分野で堀内さんが見せてくれる好奇心や、素晴らしいものを伝えたいという堀内さんの私たちへの優しさを感じ入りました」
―ほかに展覧会オリジナルグッズで、イチオシはありますか?
「こちらのサコッシュです。FUTUREのセクションに、元になったTシャツと原画、両方展示してるんですよ。そのデザインをサコッシュにしました。スマホとお財布だけなどちょっとした荷物を入れるときにぴったり。設営時など現場バッグとして活躍してくれていますが、ちょっとしたお出かけや旅行にもぴったりです。また、『ぐるんぱのようちえん』をモチーフにしたビスケット型ポーチもお気に入り。ビスケットをバッグから出す喜びがたまりません!触り心地も使い勝手もいいですよ」

―最後に、クウネル読者にメッセージをお願いします!
「大人も子どもも関係なく楽しめる展覧会になっていると思います。お子さんやお孫さんと一緒に来ても、家族やお友達同士できても、心を開いて自分の感覚で感じることを、展示室で味わっていただけたら嬉しいです。特に、巨大絵本の空間では、靴を脱いでリラックスできるようになっています。座って、肩の力を抜いていただいて「子どもの頃に読んだ」とか「今も好きだな」など、普段は忘れてしまっている特別な想いを思い出してもらえたらと思います」
林 綾野/はやし・あやの
フリーのキュレーターとして展覧会を企画するほか、アートライターとして美術書を執筆。これまでに手がけた展覧会は、「熊谷守一 いのちを見つめて」(2019年)、「柚木沙弥郎 life・LIFE」(2021年)、「堀内誠一 絵の世界」(2022年)、『谷川俊太郎 絵本★百貨展』(2023年)など。主な著書に『画家の食卓』(講談社)、『浮世絵に見る江戸の食卓』(美術出版社)がある。