服は自分を勇気づける鎧。フランスのファーストレディー・ブリジットがルイ・ヴィトンを選ぶ理由
人の目を気にせず、恋愛も仕事もファッションも自分のスタイルで謳歌する……そんな"パリジェンヌ流の生き方"に憧れている人も多いのでは?
ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRのトップをつとめ、業界内外で「もっともパリジェンヌな日本人」と称された藤原淳さんが、「すっぴん=ありのままの自分」で爽快に生きるパリジェンヌたちの姿を綴った著書を上梓。その中から「自分らしさ」を貫くための考え方とヒントを4回にわたってお届けします。パリジェンヌはほぼすっぴん!しわも、くすみも、シミも、隠そうとはしていません【パリジェンヌはすっぴんがお好きvol.1】に続き、連載第二回目です。
※本企画は、藤原淳さんの『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)からシリーズ4回でご紹介します。
目 次
「自分にとって心地よい」とはどういうこと?
「自分にとって心地よいモノ」とは、単に「着心地がよいモノ」ではありません。「ラクだから」という理由だけで服装を選ぶと、ただの「ダラシない人」になってしまいます。
「自分にとって心地よいモノ」とは、キム・ジョーンズが言っていたように、「自分を見失わない」ための服装です。自分が最も自分らしくあることができる服装です。
ファッションは時には自分を奮い立たせ、自分の中に秘められた魅力を最大限に引き出す特別な力を持っています。私はそれを他ならぬ、フランスのファースト・レディー、ブリジット・マクロン大統領夫人から学びました。
ファースト・レディーともなると、当然のことながら着ている服、履いている靴、その一つ一つが世間の注目の的になります。大事な場面で何を着るかという選択は、凡人と違い、メディアであれこれ分析されるのが常です。
自国のブランドを身に纏い、自国のソフトパワーを前面に押し出すという戦略は、王族でも、政治家でも、一国を代表する立場にある人は誰でも使う手ですが、マクロン大統領夫人はフランス人デザイナーの中でも、特にルイ・ヴィトンの服を好んで身に着けています。それが戦略的な発想とは無縁だという驚きの事実を発見したのは、ブリジットさんと直にお会いした時のことです。
ファースト・レディーのファッションには理由があった
たまたま私がそこに居合わせる、という貴重な機会だったのですが、マクロン大統領夫人は噂にたがわず、聡明かつ気さくな方でした。私はたちまち魅了されてしまいました。長い、真っ直ぐな脚が映える、ミニスカートとブレザーを着こなしています。藍色の上下は大きなボタンが目立ち、凜とした大統領夫人にとてもよく似合っています。もちろん、ルイ・ヴィトンのスーツです。
私がルイ・ヴィトンのスタッフだと知ると、ブリジットさんは声をひそめ、ここだけの話よ、と前置きしながら言いました。
「ルイ・ヴィトンばかり着ているから、よくスタッフに怒られるのよ。違うデザイナーさんの服も着てくださいって。でもね、私、(ルイ・ヴィトンのレディース・デザイナーの)ニコラの服が大好きなの」
どう返事していいのかわからず、とりあえずお礼を言うと、大統領夫人はとても意外なことを言いました。
「私、本当は人前に出るのが苦手なの。緊張しちゃうのよ」
ファースト・レディーではあっても、ブリジットさんも一人の女性。大統領夫人として私の想像を絶するレベルの緊張感やプレッシャーを日々感じているに違いありません。そんな彼女の無言の戦いを垣間見ることができたような、とても貴重な一瞬でした。目を見張っている私の隣でブリジットさんは続けました。
「でもルイ・ヴィトンを着ると勇気が出てくるのよ」
「勇気、ですか?」
思わずオウム返しすると、ブリジットさんはキッパリと言いました。
「そう。ニコラの服は私にとっての鎧のようなモノよ」
自分を貫き、奮い立たせるためには鎧が必要
ブリジットさんがエマニュエル・マクロン大統領より24歳年上の教師であり、大恋愛の末に結婚したのは有名な話です。言ってみれば、ブリジットさんは世間の常識という常識を覆してきた女性です。70を過ぎても気おくれすることなく、ミニスカートと15センチもありそうなパンプスを履きこなしています。
服装からしても、「自分なりを貫く強い女性」というイメージがあった私ですが、そんな彼女が赤の他人である私に向かって、「自分を奮い立たせるためには鎧が必要」とサラリと言うのです。私は驚きのあまり、気の利いた言葉も見つからず、廊下を去り行く大統領夫人の美しい後ろ姿を、ただただ無言で見つめていました。
弱さを認めて鎧を纏えば勇気と自信が湧いてくる
本当に強い人とは、大統領夫人のように自分の弱さを認めることができる女性なのかもしれません。そして人に何と思われようが、どのように意見されようが、凜として自分を優先することができる女性なのかもしれません。
私はと言えばその日、地味なパンツ・スーツを身に纏っていました。ラインが身体に合わず、あちこちシワが寄っています。若造の自分も一人前だと思われたいという一心で選んだ服装でした。とても自分らしい服とは言えません。自分に勇気を与えてくれる服ですらありません。
「自分だけの鎧」。是非見つけてください。それは自分の心を奮い立たせてくれ、着るだけで自分が一回り素敵な女性になった気分になるモノです。
私がその後、数年かけて見つけた「自分を奮い立たせるモノ」は、黒革のライダース・ジャケットでした。ワンピースにも、ロングスカートにも、ジーンズにも合い、いろいろな場面で大活躍してくれます。長すぎず、短すぎず、私の身体のラインを綺麗に見せてくれるモノです。そして何よりも、着るだけで背筋がシャンとするような爽快感があります。
黒革のジャケットは私の大切な鎧です。
※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
PROFILE
藤原淳
ラグジュアリーブランド・マイスター。著作家(パリ在住)。
東京生まれ。3~6歳の間イギリスで育つ。聖心女子大学国際交流学科卒業。1999年、歴代最年少のフランス政府給費留学生としてパリ政治学院に入学。卒業後、在仏日本国大使館の広報を担当したのち、ルイ・ヴィトンのパリ本社にPRとして入社。ディレクターを経て、2021年に退社し著作家へ。著書に「Mes rituels japonais (日本人である私の生活習慣) 」(2022)、「La parfaite Tokyoïte(真の東京人)」(2023)など。
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ルイ・ヴィトンのパリ本社でPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された著者が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案するエッセイ。
『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)256P 1,540円
出版社HP