スタイリストchizuさんの高知旅【前編】朝ドラで話題、牧野富太郎ゆかりの地を訪ねて
NHKの連続テレビ小説『らんまん』はご覧になっていますか? 主人公は、高知県佐川町出身の植物分類学者・牧野富太郎がモデル。草花が好きだった少年が、のちに国内の1500種類以上の植物に名をつけ、“日本の植物分類学の父”といわれるようになるまでの半生を描いています。
この牧野富太郎のゆかりの地を訪ねたのは、スタイリストのchizuさん。かねてから、ゆっくり見てまわりたいのは高知、と決めていたそうです。「一度訪れたことがあったのですが、食はもちろん、地元の人の人懐っこさや、高知独特の山と海の風土がとても魅力的で。その時、またすぐに高知に戻ってきたい!と思ったんです」。
朝ドラもチェックしているchizuさんは、主人公のモデルである牧野富太郎の、植物愛にあふれる人柄にもすっかり魅了。「膨大な数の植物を採集して、驚くほど緻密な植物図を描いて。学者でありながら、自らを“草木の精”と名乗ってしまうそのお人柄、とっても気になります。ゆかりの地を訪ねて、牧野博士のことをもっと知りたいですね」。
目 次
絶対訪れたい場所! 『高知県立牧野植物園』へ
まず訪れたのは、牧野博士の名を冠した県立の植物園『高知県立牧野植物園』。五台山の起伏に富んだ地形と自然の中に展示館や温室などが建てられ、園内を歩きながら牧野博士にゆかりのあるさまざまな植物を鑑賞することができます。
まるで植物図鑑!「土佐の植物生態園」からスタート
正門を通り抜け、さっそく出迎えてくれるのは、高知県に生育する植物を観察できる「土佐の植物生態園」エリア。そこに、ところ狭しと立てられた植物の解説プレートの数に驚くchizuさん。「これから顔をのぞかせる植物も、今咲いている植物も、ぜーんぶ教えてくださっている。しかも解説がていねいですね。一つと見逃さず読みたくなります」。
見頃の植物には「咲いています」「実っています」と目印をつけてくれているので、見つけるたびに写真を撮ってみたりと、宝探しはなかなか終わりません。
次に向かったのは「牧野富太郎記念館 本館」。建築は、『とらや赤坂本店』と同じ建築家の内藤廣氏。大屋根の曲線が特徴の建物も、見どころのひとつです。
高知の街並みと山々を一望できる 「こんこん山広場」
本館を抜けて向かった先は、園内で最も標高の高い場所「こんこん山広場」。スロープの道を登っていくと、五台山の景色や高知の街並み、四国山地の山々の大パノラマを一望!
牧野博士ゆかりの植物が あちらこちらに
こんこん山広場から回廊を通り、「牧野富太郎記念館 展示館」へ。途中には牧野博士に特にゆかりのあるバイカオウレンやジョウロウホトトギス、スエコザサなどを見ることができます。
牧野博士の業績と人柄に迫る 「牧野富太郎記念館 展示館」
いよいよ、牧野博士の業績を展示する「牧野富太郎記念館 展示館」へ。少年期からその才覚が芽生え、日本中で植物採集を行うフィールドワークで仲間を増やし、晩年まで植物研究に没頭された生涯を知ることができます。
中でも驚くのは、植物図と標本の美しさ。特注の筆で描いた植物図は、1ミリの幅に線を5本描いているほど、緻密。さらに、さまざまな角度で観察した部分図や断面図を一枚の紙に配置した「牧野式植物図」と呼ばれる手法は、繊細な絵はもちろんのことレイアウトも美しく、おしゃれにすら見えます。
まるでジブリの世界!? “映えスポット”温室
牧野植物園には、もう一つ“映えスポット”が。園の南側に位置する温室は、国内外から集めた珍しい植物が集合しています。植物に覆われた入り口の「みどりの塔」は中でも圧巻!
「とにかく密度が濃くて、パンチをくらいました(笑)。牧野博士がやってこられた研究の奥深さや収集量にもびっくりしっぱなしでしたが、今、見ておくべきものがたくさんあると感じました。けなげな植物にどれだけ驚異的な生命力があるのか、どれだけ大切なものなのか。難しいことだけじゃなくて、楽しい仕掛けもいっぱいあって。なにより、“伝えたい”という植物園の想いと愛情がいっぱい詰まっている。植物に興味のある人もそうでない人も、ぜひ訪れてほしい場所です」(chizuさん)
高知県立牧野植物園
四国霊場第31番札所・竹林寺が建つ五台山の宿坊の一部を譲り受けて、1958年に開園。約8ヘクタールの広大な敷地には、建築家・内藤廣氏による牧野富太郎記念館 本館・記念館がある北園、温室がある南園、実験室を見学できるエリアやレストランや、ミュージアムショップがある植物研究交流センターなどがある。
住所:高知県高知市五台山4200-6
TEL:088-882-2601
開園時間:9:00〜17:00(最終入園16:30)
ホ―ムページ:https://www.makino.or.jp
若き牧野少年が足繁く通った 横倉山周辺、越知町
足を伸ばして、越知町へ。アカガシの原生林や希少植物が今も多く残る横倉山があり、若き日の富太郎は、この山に魅せられて足繁く通ったそうです。
牧野博士が横倉山で採集した植物の紹介や、化石や隕石なども展示する『横倉山自然の森博物館』を訪ねました。
森に包まれるように佇むソリッドな建物は、安藤忠雄氏の建築。周辺の自然に敬意を払い、やがて森に覆われる未来を想定して建てられたといいます。
牧野博士は、この横倉山でジョウロウホトトギスを発見(牧野植物園でも見ることができます)。植物学者のマキシモヴィッチ博士が学名を、牧野博士が和名をつけたことで有名になりました。また、横倉山の麓に立つ社「横倉宮」の横に現存するヨコグラノキは、新種記載のため標本を採集したりと、博士は横倉山で採集した25種類の植物の名を付けたそうです。
「自然がたくさん残る山の中に博物館があるなんて! やがて森に覆われてしまう未来を良しとする考え方や、抱えきれないほどある自然のナゾに向き合う職員の方々の姿から牧野博士に通じるものを感じました。博物館のテラスから見た越知町の景色は、ずっと見ていたかった!」(chizuさん)
横倉山自然の森博物館
住所:高知県高岡郡越知町越知丙737-12
TEL:0889-26-1060
開園時間:9:00〜17:00(最終入場16:30)
休館日:毎週月曜(祝日の場合は翌日)、12/29〜1/3
ホ―ムページ:https://www.yokogurayama-museum.jp
牧野博士の生まれ故郷、 酒蔵のまち佐川町
牧野博士が生まれた町、佐川町。造り酒屋の一人息子として生まれましたが、植物研究に没頭するため酒蔵を人手に譲り、のちに老舗酒造メーカーの「司牡丹酒造」が譲り受けました。
立派な看板と杉玉が掲げられた司牡丹酒造。約400年前、1603年にこの町で創業した老舗の貫禄と、情緒ある街並みが調和しています。
もともと酒蔵にも興味があるというchizuさん。「長い歴史を持つ酒蔵の姿を見られて感激。タイムトリップしたかのような町並みが素敵です」
取材に訪れたのは5月下旬。ちょうど酒造りはお休みの時期でしたが、出荷直前を見学できたのが、「マキノジン」という牧野博士の名前が商品名になったジンです。
ジンをつくる蒸溜器は、牧野博士の生家の蔵に設置されたもの。10年ほど使われず老朽した蒸溜器を蘇らせたのは、高知市内でBARを営む塩田貴志氏。バーテンダーとしての経験と技術によってクラフトジンが完成。蒸溜器のある場所がもともと牧野の生家の蔵だったことから「マキノ蒸溜所」と名付けられた…というストーリー。
後日の夜、塩田さんのBARでマキノジンのお酒を一杯。「旬の小夏とボタニカルなフレーバーが暑さを忘れさせてくれました」(chizuさん)
アンテナショップで利酒 &ショッピング
司牡丹のアンテナショップ「酒ギャラリーほてい」で、定番の「司牡丹」純米吟醸、大吟醸、ゆず酒などを試飲したchizuさん。「好みは純米吟醸の方かなぁ。あと、ゆず酒の「山柚子搾り」は気をつけないとごくごくといっちゃう(笑)。高知らしいお酒なので、マストで買います!」
「ほてい」に隣接する「旧濱口家住宅」には、浜口家の「野菊」、竹村分家の「若柳」など、かつて佐川町にあった銘酒の名が入った徳利が展示。牧野家の岸屋は「菊の露」。今は存在しない、とても貴重な徳利を見ることができました。
酒ギャラリー ほてい
住所:高知県高岡郡佐川町甲1299
TEL:0889-22-1211
営業時間:9:30~13:00、13:45~16:30
定休日:年末年始
ホ―ムページ:https://www.tsukasabotan.co.jp
有形文化財の旧家で コーヒータイム
酒蔵が並ぶ町の通りを歩いていると、酒蔵に負けない情緒たっぷりなお店を発見。のれんをくぐると、国内外のクラフト雑貨やインテリア雑貨、フェアトレード商品などが並ぶ、セレクトショップのようです。奥には庭がのぞめる座敷があり、ドリンクをいただける喫茶室に。
お話を伺うと、旧竹村呉服店を改築しているそうで、なんと国の有形文化財だそう! 町歩きの疲れをとるchizuさんの休憩タイムは、ここに決定。
キリン館
住所:高知県高岡郡佐川町甲1300
TEL:0889-22-9160
営業時間:10:00~18:00
定休日:火曜
ホームページ:https://www.kirinkan.store
牧野富太郎ゆかりの地をたっぷりと旅した、chizuさん。
「牧野博士の爛漫としたお人柄を育んだ高知県、という土地柄にとても魅力を感じました。決して昔だけの話ではなく、今もなお、その気質みたいなものが脈々と流れていると思いますね。牧野植物園では、植物の生命力に圧倒されたと同時に、身近な自然環境は自分ごととして決して切り離せないんだと、とても大切なことを教えていただいた気がします」
chizu
スタイリスト。1955年、九州生まれ。食まわり、インテリアのスタイリングのほか、店舗·商品開発などにも携わる。