ジンバブエの辺境の地で作られるトンガバスケットの物語とワイルドな南アの暮らし
素朴な天然色が織りなす豊かな表情が美しいトンガバスケット。日用品としての使いやすさと、インテリアをセンスアップするデザイン性の高さを併せ持ち、すべてトンガ族の女性たちが編み上げる1点ものです。バスケットとその模様に綴られたストーリーのこと、使い方や飾り方、さらに自身が経験したアフリカ生活について、トンガバスケット専門店『LE SUD』の店主、千亜紀・DELUCAさんに伺いました。
目 次
トンガ族の女性たちが作り出すプリミティブなバスケット
「トンガバスケットと出会ったのは、夫の転勤先だった南アフリカです。バカンスで南アフリカを横断旅行しているときに、ホテルのロビーやおしゃれなカフェでよく見かけた素敵なカゴが、トンガバスケットでした。モダンなインテリアと、天然素材でできたプリミティブなバスケットという組み合わせのかっこよさに衝撃を受けて、私も生活に取り入れたい!と思ったんです」(千亜紀さん・以下同)
多種多様な柄やサイズ、落ち着いた色でありながら際立つ存在感とインパクト。旅行が終わるころにはすっかり魅了され、その後は南アフリカでトンガバスケットを探す雑貨屋巡りの毎日だったそう。
「トンガバスケットを作っているのは、南アフリカのお隣の国、ジンバブエで暮らすトンガ族の女性たち。アフリカではビンガバスケットの名で知られていて、素材はイララと呼ばれるパーム椰子の葉。それをトンガ族の女性たちが草木染めを施し、一つ一つ編み上げています」
歴史と風土を語るバスケットのデザイン
トンガ族が暮らすのは、ジンバブエの中でも特に辺境の地といわれる、ビンガ地方の深い渓谷。そこで作られるバスケットには、独自の信仰やライフスタイルを根強く守るトンガ族らしい歴史的な背景があるといいます。
「1950年代半ば、世界最大のダム(カリバダム)の建設によって、カリバ渓谷の上流で暮らしていたトンガ族は移住を余儀なくされました。コミュニティが分断されるなど生活が大きく混乱する中で、コミュニケーションツールとして作られるようになったのがトンガバスケットです」
デザインは、季節を知らせる植物や、蝶や雷などの自然がモチーフ。トンガ族の女性たちは折に触れて、彼らの歴史と風土をバスケットに編み込み、後世へ伝えているのだとか。また、植民地戦争のときには、女性がバスケットのデザインを通して夫とコミュニケーションをとっていたという説も。
「第一子が生まれた際のシーズンバスケットは特に重要で、そのときが思い出せるような柄を編み込んで部屋に飾ります。バスケットが歴史を語るツールとして大切にされていたことが分かりますよね。作り手の思いや願いが込められていることも、トンガバスケットに惹かれる理由です」
軽くて丈夫で使いやすく、飾れば絵になる万能カゴ
天然素材を手編みして作られるトンガバスケットは、使っても飾っても、その持ち味を十分に発揮する万能性が魅力です。
「軽くて丈夫なので、普段使いのバスケットとして、例えば野菜やフルーツを盛ったり、パンの粗熱をとったりするのに便利。家庭菜園の野菜やハーブの収穫、花を摘んで入れるのにもぴったりです。壁からひょいっと外して小脇に挟めるのは平カゴの良さですよね。小物入れとしても優秀で、我が家では玄関をはじめ一部屋に一皿以上は置き、散らかりやすいものをぽんぽんのせています(笑)。仕事道具を1セットにまとめるのにもちょうどいいです」
「アースカラーなのでどんなインテリアでも飾りやすく、和室にもフィットします。手軽なのはウォールデコ。壁一面に大小さまざまなサイズを並べたり、1枚でも手軽にモダンさをプラスできます。壁に立てかけてもいいですね。オーナメントやランプシェードにもおすすめです」
不便さもごく日常、圧倒的な自然と共存するアフリカ生活
南アフリカへ引越すまでは、フランス人の夫と娘さんとパリに住んでいた千亜紀さん。日本ともフランスとも異なるアフリカ文化は、想像を遥かに超えるできごとがたくさんあったそうです。
「私が住んでいたエリアは田舎の方で、あまり娯楽がない分、海や山で雄大な自然に触れたり、友人とゆっくり過ごす時間が充実していました。サーフィンをするために車で海へ向かえば、ほんの20分ほどの道中で、キリンやシマウマが普通に見られる、周りがサファリパークみたいな環境ですね。サルがキッチンからバナナを盗むとか、朝、庭の塀の向こうにダチョウの頭がちらちら見える…なんていうのも日常でした」
「圧倒的スケールの自然と共存していると、時間の流れの感じ方は本当にゆっくり。その中で暮らす南アフリカの人たちはとてもフレンドリーで、とにかく子供にやさしく、ちょっと距離が近すぎるくらい(笑)。郵便が届かない、時間を守らない、なんていうルーズさはごく普通で、怒っても改善もされないので諦めが肝心だと学びました(苦笑)」。
そしてインフラ不足で2日に一度は計画停電が。これにはうまく乗り切るコツがあるそうで…。
「自分たちで特大キャンドルを作って準備したり、割り切って火をおこしバーベキューの日にするのが南アスタイルでしたね」
不便さは大前提、細かいことは気にしない文化、すべてが大らかな南アフリカの生活は、シンプルでリアルだったという千亜紀さん。その中でもずっと気になっていたことがあったのだそう。
「路上で物乞いをしたり、学校に行かず家で弟妹のお世話をしている5~6歳の子供たちがいるという、教育の不平等問題を目の当たりにしました。子を持つ親として、一人の大人として、これは向き合わなければならないことだなと」
昨年ふたたび夫の転勤があり、現在家族と九州で暮らす千亜紀さんは、今年オンラインのトンガバスケット専門店『LE SUD』をオープンしました。
「バスケットの魅力を紹介するだけでなく、フェアトレードの商品を扱うことで、トンガ族の女性の経済的自立と、アフリカの子供たちの教育支援を目指すという目標も掲げています。まずは、みなさんにバスケットのことを知っていただけるよう、ジンバブエの方たちと相談しながら進めています。ただ、ジンバブエから日本に届くはずのバスケットが、なぜかロンドンに届いたという連絡が…。まあこれもお国柄。私もだいぶ南アフリカに鍛えられたようです(笑)」