若き日に心を震わせられた詩の一節。大人になってより深まった書き手の心情への共感。本を通じた敬愛すべき女性との出会いは心の宝物です。6人の女性たちに、それぞれの先達への思いを聞きました。
森祐子/もりゆうこ
編集・PR
ものと人、その背景を知り、伝える。編集・執筆のほか、ブランドのコミュニケーション企画、東京・神宮前のギャラリー『galerie a』のPRなどを行う。
森祐子が抱きしめてきた、茨木のり子の言葉
祐子さんが茨木のり子さんの詩に出合ったのは10代の少女のころ。茨木さんの代表作『自分の感受性くらい』の一節を日記帳に書き写していたのだとか。「乾いた心に水やりを怠ったのは自分、〈自分の感受性くらい自分で守れ〉という言葉に惹かれたんだと思います。いろいろ困難なことがあっても人のせいにしないでいたい、人に押しつけそうになっても、そうはしないという気持ちは、そのころから今でもずっと持ち続けています。茨木さんの言葉は押しつけがましくなく、清廉で、ふくよかで、美しいです」
茨木さんが50年間暮らした家や暮らしを、詩や随筆、自筆原稿とともに紹介した本書も愛読書の中の大切な1冊。東京郊外の木造二階家のおちついたたたずまい、おおらかながら吟味された家具や調度に惹きつけられます。「茨木さんが写っているわけではないのに、人と暮らしが感じられます。壁に飾られたスプーンや生活工芸など、それぞれに物語がありそう」と森さん。よいつくりの家と、花器や燭台、布や器。キンモクセイが窓辺に薫る、豊かな庭木。夫への思いを綴り収めた箱。
「華美に飾り立てず、誰のためでもなく好きなように生きている。詩の印象のまま、自立した女性のいた家、という感じだけれど、硬く閉じた雰囲気がなくて、手紙や原稿の字のようにやわらかさを感じます。自分も自分らしい暮らしをつくっていこう、ちゃんと自分を生きよう、と思えるのです」
『クウネル』2023年1月号掲載
写真/久々江満(本)、取材・文/石毛幸子、丸山貴未子