詩集としては異例のベストセラーとなった『倚りかからず』をはじめ、時代をこえて多くの人々の胸を打つ茨木のり子さんの言葉の数々。『アートフロントギャラリー』の前田礼さんも、そんな彼女の言葉と生き方の美しさに憧れる女性のひとり。今回は前田さんおすすめの茨木のり子詩集を、美しい詩とともにご紹介します。
茨木のり子
1926〜2006年。大阪府出身。代表作に『自分の感受性くらい』『倚りかからず』など。50歳からハングルを学び習得、翻訳詩集『韓国現代詩選』を刊行した。『茨木のり子の家』、『茨木のり子の献立帖』などもある。
『茨木のり子詩集』谷川俊太郎選
どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒
鍬を立てかけ 籠を置き
男も女も大きなジョッキをかたむける
(中略)
どこかに美しい人と人との力はないか
同じ時代をともに生きる
したしさとおかしさとそうして怒りが
鋭い力となってたちあらわれる
ー「六月」より
お母さんだけとはかぎらない
人間は誰でも心の底に
しいんと静かな湖を持つべきなのだ
ー「みずうみ」より
『茨木のり子詩集』
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
ー「汲むーY ・ Y にー」よ り
『詩のこころを読む』
前田礼/まえだれい
海外とのアートプロジェクトや代官山クラブヒルサイドの企画コーディネートを担当。市原湖畔美術館館長代理。
『自分の感受性くらい』などの詩で、多くの女性の共感を得てきた茨木のり子さんに、前田礼さんはずっと敬愛の気持ちを抱いています。「すべてのいい仕事の核には震える弱いアンテナが隠されている」。茨木のり子さんの詩「汲む」に書かれたこの言葉に特に励まされ、「いくつになっても、そういう気持ちを持って仕事をしたいし、生きていきたい、とずっと思ってきました」。
前田さんにとっては、生きる道筋を照らしてくれる灯りのような言葉なのです。「日常をすくいとる、平易な言葉を使っているけれど、凛として美しいので す。戦中を生きた世代として、平和のことや日本の戦争責任についても考え、それを詩にうたわれている姿勢にも憧れます」。
死後に発表され、夫への愛情を素直に綴った詩集『歳月』も、女性としての茨木さんの生の感情があふれていて、圧倒的な美しさだという。
『ku:nel』2020年9月号掲載
取材・文/原 千香子、青木純子
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