『クウネル』でエッセイ〈わたしの扉の向う側〉を連載中の山崎マリさん。最近では、山下達郎さんのアルバムジャケットに使われた、肖像画が話題です。
著書も多数あるヤマザキさんの「わたしを作った本」について伺いました。
ヤマザキマリさんの本の原点となったのは、4歳の頃に母にねだって買ってもらったという『昆虫図鑑』。テープで補修された当時のままのボロボロの図鑑からは、数え切れないほど何度もページをめくった様子が窺えます。
「その頃は北海道に住んでいて、音楽家の母が留守がちだったこともあり、寂しさまぎれにいつも昆虫を捕まえて遊んでいました」
昆虫の多様性や、意思の疎通のできない生き物と共生する面白さを子供心に感じていたそう。
「それは大人になってからも同じで、人間が特別な存在という感覚は私の中にはないんです。昆虫と同じように人間の世界にも多様な人種、文化があって、だから価値観や物差しが違っても、私にとっては負担でもなんでもない。人間や物事を観察する視点も、この図鑑のおかげで育まれたと思います」
安部公房の無機質で情動的でない文学性が好きなのも昆虫好きが所以。ガルシア= マルケスの『百年の孤独』も図鑑と等しく〝観察本〟といいます。
「『百年の孤独』は、人間という社会性の生き物の観察記録みたいなもの。『テルマエ・ロマエ』で、日本人にとっては見慣れたシャンプーハットにローマ人が驚くシーンとか、普段、当たり前にあると思っているものを、デフォルトにしてみる視点もマルケスの影響だと思います。『祖国地球』は夫に勧められました。人間にとっての教養と見聞の必然性を自覚できる大切な一冊。本棚には基本的に人間を俯瞰で観察しているような内容の書籍が多いですね」
どの本も読み返すたび新たな発見が。「私が好きなのは一度読んだら完結する本じゃない。常に思索欲を挑発してくれるような本なんだと思います」
\わたしを作った本4選/
ヤマザキマリ
東京造形大学客員教授。’84年に渡伊。2010年、『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞、第1 4回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』『ヴィオラ母さん』など。
写真/玉井俊行 ヘア&メイク/田光一恵 取材・文/矢沢美香 編集/河田実紀 Hata-Raku