【広瀬裕子さんのかろやかな歳の重ね方vol.1】55歳は大人のまんなか。日々の選択が自分を作る。

広瀬裕子さん

人生100年時代と言われる今。エッセイストとして活躍しながら、50歳で設計事務所での建築・空間プロデュースという新しい仕事を始めた広瀬裕子さん。昨年発売された著書『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)では、「もう55歳」と「まだ55歳」を行き来する「55歳の今」を描き、同世代の女性を中心に共感を集めています。

「55歳は50代の楽しみと60歳への準備が重なる年齢」と語る広瀬さん。どうすればその期間を気持ちよくすごせるか、かろやかにいられるか。著書からそのヒントをいただきます。

あたらしい車

「車を変えよう」。 55歳になる半年ほど前、運転している時に思いました。思いついたとい うより、数ヶ月前からなんとなく予兆のようなものがあったように思います。 どこがどうと言葉にできないけれど何かがいままでとすこしちがう──。時々、そういう 感覚を持ちます。その時も、運転中にそう感じることが幾度かありました。集中力やブレー キのタイミング、目に映る風景、長距離運転の後。そういったちいさな違和感がつみ重なっ た結果「車を変えよう」という気持ちになったのです。

すでにわたしは選ぶ車の条件を決めていました。何より安全であること──。

いままで車を何台か乗りついできましたが、選択条件の一番に「安全」がくるのは、はじ めてのことです。それだけ車を変えようと思った理由が、わたしにとっては明らかだったということです。その時「歳を重ねることはこういうことなんだ」と思いました。自分の手に していた当り前のような何かを別の何かに委ねること。優先順位が入れ替わること、と。

わたしたちは、毎日、歳を重ねています。その変化は、表層意識にほとんどのぼってきま せん。 1日という単位では、自分の変化には気づきませんが、半年、1年と、時間が経過すると、 変わったことに気づきます。 でも、気づいた時には、その変化はすでに変化ではなく日常になっているのです。

自分の何かを別の何かに委ねるということは、他者に手伝ってもらうことです。 それは、ひとかもしれません。環境かもしれません。今回のように車や、ものかもしれま せん。どちらにしても、手伝ってもらうならお互い気持ちよくありたい。

しばらくしてあたらしい車がやってきました。 長距離運転でもつかれない車です。音や振動もいままでより静かです。ライトは自動で点きますし、何か忘れていたら「忘れていますよ」と教えてくれます。ぶつからないように注意もしてくれます。
わたしがすることが減り、車がしてくれることがふえました。

年齢を重ねたことで失っていくものがいくつもあります。これからは、ますます、そうな っていくでしょう。けれど、また、それとは別にあらたなものを手にすることもあります。 でも、その時にならないと、どんな風景が目の前にあるかはわかりません。歳を重ねるこ とは、はじめての扉をあけていくようなもの。扉をあけた時、そこにどんな景色が広がって いるかはじめてわかるのです。

そこに、発見や関心、やさしさやうつくしさがあるとしたら──。その時ひとは「歳をと るのもわるくない」と思うのでしょう。

撮影 加藤新作

※本記事は『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)からの抜粋です

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