NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に貫禄のレストランオーナー役で登場、改めて存在感を印象づけた原田美枝子さん。
新しい主演映画が先ごろ公開になり、さらに原田さんが監督した短編ドキュメンタリー映画の配信が始まっています。家族のつながりやひとの記憶、思い出といったことに考え至れる、美しい2編は必見です。
最新映画『百花』は愛と記憶をテーマとする物語
先日封切られた映画、『百花』。
原田美枝子さんは、菅田将暉さん(原田さんとダブル主演)演じる息子をピアノ教師をしながら女手ひとつで育ててきた母を演じます。
結婚し、子どもも生まれようとしている息子は、母とは打ち解けられない感情をもち続けていて……。母は人生の夕暮れにさしかかり息子への愛と、過去への思いや秘密を抱えつつ、認知症の診断を受け次第に記憶と日常を失っていきます。息子はそんな母と向き合いながら、逆に母との思い出を取り戻し、母の秘密に触れていくことになるというストーリー。
原田さんは、「いろいろなチャレンジがあり、冒険をさせてもらった現場です」と自身もコメントしているように、だんだん記憶が薄れていく切実な状況や、20年前の若い時代を演じるなど複雑な役どころ。
菅田さん演じる息子も、母との心の溝が埋めることができないという繊細な設定ですが、ナチュラルで強い俳優ふたりのセッションで、特殊でありかつ普遍的な親子の関係性はこまやかに描き出されます。
映画の見どころ聴きどころは、たっぷり
この映画の川村元気監督は『告白』『モテキ』『君の名は。』ほか多くのヒット映画を生み出したプロデューサーとして著名。一方で映画化もされた『世界から猫が消えたなら』『億男』などを書いたベストセラー作家としても活躍しています。
自らの著作『百花』を長編第一作目として監督し、脚本も手掛けたことで、さらなる注目も浴びる映画。ワンシーンワンカット撮影のこだわりなど確信的な演出で、文学の世界が映画的な世界に昇華していくのも、観る人には興味深いはずです。
また原田さん演じる母はピアノ教師ということで、名曲数曲が物語を導く側面もあり、そこにも映画的な面白さがちりばめられます。
母と息子の思い出の行方
母はつぶやきます「半分の花火が見たい」
母と自分の記憶を追跡するように生きることになった息子は、母を心から受け入れるのでしょうか。息子が取り戻す思い出とは?
ある愛と記憶の物語を見届けてください。
『百花』
9月9日(金)~東宝系で全国公開中。
©2022「百花」製作委員会
https://hyakka-movie.toho.co.jp/
原田美枝子さん制作、撮影、編集、監督、出演によるドキュメンタリーが配信
70年代にデビューして、黒澤明、増村保造、深作欣二、……といったレジェンドの監督たちから愛され、多くの作品に出演をしてきた原田美枝子さん。
今までのさまざまな経験も味方にして手作りした短編ドキュメンタリー映画が『女優 原田ヒサ子』です。
母と母の記憶にフォーカス
自ら制作・撮影・編集・監督を手掛け母の記憶に焦点をあて、母に送ったこの作品。2020年3月の外出自粛要請の時期に劇場公開され、その後全国を巡回したもののDVDなどは出ていませんでしたが、このたびNetflixで独占配信がスタート。
あるとき、認知症が進んだお母さんが「私ね、15のときから、女優やってるの」と語るのを耳にし、それは私のこと……母は女優になりたかったのかもしれないと思ったという美枝子さん。母を女優としてワンカットでも映画を撮ったらと思い立ったことから一編の映画に。
〝身体はうつろいゆくものだけど、心は何を残すだろう″
映画のキャッチコピーはしみじみ響きます。
少し変わったアプローチによるホームメードドキュメンタリー。
美枝子さん、美枝子さんの長男の石橋大河さん(VFXアーティスト)、長女の優河さん(シンガーソングライター)、次女の石橋静河さん(女優)たちがヒサ子さんを見守っている様子が温かくて、ヒサ子さん自身はとてもかわいくて。30分弱の映画に家族の愛が結晶しているように感じます。
原田美枝子さんは昨年、母ヒサ子さんを見送ったそうです。3人の子どもたちも活躍している今日、どんな心境なのでしょうか。
9月20日発売『クウネル』11月号「60歳からの幸せのルール」特集においては、幸せを感じるときについて語ってくださっています。そちらもぜひお読みください。
取材・文/原千香子