【尾見紀佐子さんの好きなもの】自分の人生を生きる、勇気を与えてくれた絵

尾見紀佐子さん

心の支えとなっているもの、暮らしで頼りにしているもの。「愛するもの」についてのストーリーを語っていただきました。

子どもにまつわる3つの施設で開催するアートスクールや、主宰する旅と手しごとをテーマにした合同展示会『TRACING THE ROOTS』などを通して、普段から多くのアーティストと接している尾見紀佐子さん。

お子さんたちが独立という節目に、初めて自分のために買ったアート作品が、 こばやしゆふさんの絵画です。

尾見さん宅のダイニングに飾られた、約100cm四方の大きなキャンバス画
ダイニングに飾られた、約100cm四方の大きなキャンバス画。「エネルギーが溢れるこの絵を見ていると、元気や勇気をもらえます」

「3人の子育てをしながら仕事をしていると、やっぱり家庭が優先になって しまう。だから暮らしに必要なものではない、自分の趣味のものを買うタイミングがなかったんです」

「器や花器、オブジェなどの細々としたものは、そのときどきの思い出として買ってはいましたが、こういう大きな絵を買うのは初めて。パートナーと一緒に暮らし始めるタイミングでもあり、『これからは私の人生を生きる』という、決意表明だったのかもしれません」

アーティスト・ふゆさんが制作した器とオブジェ
どっしりとした存在感のある、ゆふさんが作る器やオブジェ。「お茶碗や大きな湯呑みは普段使いに。オブジェはお守りのようです」

この絵との出合いは、「TRACING THE ROOTS」のポスターなどに使う絵を探していたときのこと。実は、最初から購入を決めていたわけではなかっ たそう。

「アーティストの方には何かのために 絵を描いてもらうのではなく、もともとある作品から選ぶようにしています。 何枚も見せていただいた中で、最初にいいなと思ったこの絵を選んだのです。そして、準備していくなかで買いたいと伝えました。いろいろな解釈ができて自由に受け取れるし、ポジティブに捉えられて、飽きずに見られるいい絵だなと思います」

その後、ゆふさんの家に遊びに行くなど、プライベートでも交流がスター ト。その生き方からも大きな刺激をもらえる、尾見さんにとって特別な存在 なのだとか。

尾見さんが主宰の旅と手しごとがテーマの展覧会「TRACING TH E ROOTS」のDM
尾見さんが主宰する、旅と手しごとがテーマの展覧会「TRACING TH E ROOTS」のDM。ここ2年はゆ ふさんの絵がメインビジュアルに。

「ゆふさんは家や家具、身につけるもの、器、食べるものまで全部自分で作る人。探求者でもあり、自分の身体に対する挑戦もしていて、料理も実験をしながら作るんです。海に潜って魚も採ってくるし、山も走る。日本人離れしているんですよね」

「ゆふさん自身が愛に溢れた人で、ものすごくエネルギーがあるから、作り出すものが人の心を動かすんだと思います。私は普段関わっているアーティストが多いから、 あえて皆さんの物を買わないようにしているのですが、このほかにも絵を何枚かと、器やオブジェも買わせてもらいました。本当に天才だと思います」

人柄が滲み出た作品にエネルギーをもらう

尾見さんの誕生日に、ゆふさんから贈られた版画作品も。「鯛を持ち上げている私。宝物です」。隣には注連飾り<縦海老>を。

ゆふさんの作品の一番の魅力は、計算がないことだと尾見さん。

「普通は展覧会をするというとテーマを決め、それに合わせてどう表現するかを考え、どういうものが売れるか、ある程度の計算をしなくてはいけない部分もあると思うんです。でもそれが一切ない。最低限の暮らしができれば十分で、自分が作りたいときに、作りたいものを純粋に作っているんです」

「だから家にお邪魔する度に絵の作風が違って、『今はこれなんだ!』という発見がある。うさぎばかり描いていたときもあったし、この絵のような抽象の絵が続いたかと思えば、風景に人が描きこまれていたり。だから『今度は何を作るんだろう』という楽しみがあるんです。溢れ出るものを作品にしている人に惹かれるんですよね」

アーティスト・ふゆさんのお手紙とお品書き
プライベートでも親交のあるゆふさん。「何かにつけ手紙を送ってくれたり、家に行くとごはんと手描きのお品書きを準備してくれます」

この絵を機に、少しずつアートを買うことが増えたという尾見さん。家のあちこちにプリミティブなオブジェや絵が飾られています。

「あまり所有欲はなく、家を素敵にしようという視点では選んでいないんです。飾きれない作品は、運営している3施設に置いたりしています。アート作品に限らず、洋服や家具、食べるものでもなんでも、作るものには人柄が現れると思うので、ちゃんと頑張っている人のものを買いたいですね」

『クウネル』2022年7月号掲載

写真/鈴木静華、取材・文/赤木真弓

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