ジェーン・スーさん×伊藤亜和さん対談1/大人として評価される「自立心」は 孤立と背中合わせ
大人女性の最強の寄り添い人であるジェーン・スーさんと、やわらかな感性で日常を自在に紡ぐ伊藤亜和さん。年の差を越え、心地よい距離感で「友達」認定し合う2人が思う「素敵な大人」についての鮮やかなトークをお楽しみください。
伊藤亜和さんが投稿サイト「note」に綴ったエッセイ『パパと私』。X(旧ツイッター)で大きな注目を集めたその文章に、ジェーン・スーさんが惚れ込んでフックアップしたことをきっかけに、2人の軽やか な関係が続いています。
プロローグ
伊藤亜和さんが投稿サイト「note」に綴ったエッセイ『パパと私』。X(旧ツイッター)で大きな注目を集めたその文章に、ジェーン・スーさんが惚れ込んでフックアップしたことをきっかけに、2人の軽やか な関係が続いています。
大人として評価される「自立心」は 孤立と背中合わせ、だから難しい。
——お2人が「大人だな」と思う人たちに共通するもの、特徴はありますか?
場面によって違うので、こういう人が大人だと一概には言えませんが——。ひとつ言えるのは、「他人に対する期待や依存度の低さ」のような自立心は、世間から大人として評価される要素だと思います。
他人に頼らず自己解決していく人ですね。
でも、自立心が強すぎて「助けを求められない」となると、最終的には命取りになりかねない。自立は孤立と背中合わせだから、それを良いことと言えるのかは難しいところですね。
意地になると大人ではないしそのバランスは確かに難しいですね。あと、「大人の味」といえば、苦みやビターチョコのような複雑な味を連想するので、そういう味がわかるようになるのが大人かなと思うし、逆に、苦みに鈍感になっているともいえる。苦さもおいしいと感じるように、いろいろ鈍くなるのも大人かなと思います。
構成要素に矛盾があるものをそのまま受容できるのは、大人が持つ感覚かも。
それから、ちょっとくだらないかもしれませんが、靴をいっぱい持っている人。
なるほど。選択肢がある人ね。
私はワンシーズンに一足の靴を毎日使って履きつぶすし、気に入ったものは毎日食べてしまう。だから、「今日はこれ」と幅広いなかから選べる人は大人だなと。ひとつに執着しないという、心の余裕に憧れているのかも。だからひとり暮らしを始めて、最初に楽しいと感じたのが、補充。
ストック補充的なこと?
そう、補充に快感を覚える。まだシャンプーあるけど詰め替え買っとこ、みたいな。どこか余裕がある自分に、豊かさを感じるんですよね。
——世代の違う友達は多いですか?
年上の友達は、あまりいないです。っていうか、スーさんを友達と呼んでいいのかな?
友達と呼んでくれたら嬉しいです。
私くらいの年齢(20代)の人が、仕事以外で年上の人と出会うことなんて、なかなかないですもんね。
そうだよね、私も同じ。20代の友達なんて、すごく貴重な存在。
——お互い刺激し合うような関係?
単に気が合うんですね。年齢なんて関係ない、とわかる存在。そういう人は、何人かにひとりかな。私の方が年上だから、年下なら臆せず来てくれる人じゃないと、そもそも成立しないし。
特に私は「舐めた」タイプだから。
だからこそ、それが「臆せず来てくれる人」ですよね。まあ、そこに年齢の壁はないということです。それをおばさん側から言うと、妙にうざく聞こえてしまいますが。「私たち年齢とか関係ないよね!」って、それ言ったらもう、やばい(笑)。
——年下の伊藤さんから見て、スーさんを大人だなと思うシーンはありますか?
特にないんじゃないかな(笑)。
いやいやいや。でも、「大人なのに… …」って思うことはあります。
「こいつ大人なのに」って?
みんなが落ち着いている場面でも、足を組んだり、動いたりしていて。
物を壊したり倒したり。確かに、落ち着きがないよね。
でもその姿を見ると、「大人だからって落ち着いたりしなくてもいいんだ」と思うんですよ。
あははは! あれでいいんだと。
そうそう。ちゃんとやることやれば、少しくらい自由にしていいんだなと。
「この程度のことならやっても大丈夫だよ」って、大人のボーダーラインを広げていくのが私の仕事ですから。ある意味、新しい大人ですかね。
PLOFILE
ジェーン・スー/じぇーん・すー
コラムニスト、ラジオパーソナリティ。52歳。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』、ポッドキャスト『OVER THE SUN』のMCとして活躍中。新著「ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど」(光文社)。
伊藤亜和/いとう・あわ
文筆家、モデル。日本とセネガルのダブル。29歳。「note」の投稿が注目され、エッセイ集『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)でデビュー。新著『変な奴やめたい』(ポプラ社)。
写真/馬場わかな、ヘア&メイク/yumi(Three PEACE)、取材・文 /松永加奈、編集/鈴木麻子