精神科医・星野概念さんに聞いた、快適な人生のための 「続けるorやめる」選択方法/前編

やめるべきか迷ったり、しないで後悔しないか悩んだり、そんなモヤモヤを払拭し、心を健やかに過ごすヒントをメンタルヘルスのプロに伺いました。

この人がより素敵な「この人」であるためには?

———もっと成長したいと邁進してきたことに疑問を感じたり、一生懸命頑張ってきたのは何だったのかと困惑したり。そういう後ろ向きの変化を受け入れるのはなかなか難しい。

そもそも変化は悪いことなのかを考え直してみるといいですね。そうではない、と捉えることもできますし。たとえば新しいことにトライしたとして、その実感が昔とは違っていても、円熟味が増しているとかべつの捉え方もできる。速度を落とすことは、よりプロセスを味わいやすくなるとも言えます。

 

———周囲の目を気にして、変わりたいのに惰性のように続けてしまうこともあります。やめたいのにやめる勇気が出ない人も大勢いますよね。

どんな自分が素敵なのかを、いろいろ考えてみるといい気がします。「この人が、より素敵な人としてあるためには、どんな人がいいか」と、自分を客観視するとか、自分ってどういう人間なんだろうと改めて考えてみる。そのときに否定的な波に巻き込まれていると自己否定の方向に進んでしまうので、たとえば自分を同年代の友だちと仮定して、どういうアドバイスをするかを想像してみるのもよさそうです。

認知療法の中で、パッと浮かんだ思考を検証するときに「あなたの仲のいい人が同じ状況でそういう考えを持っていたら、何とアドバイスしますか」という客観視の方法を取ることがあるので、自分に対してもやってみるといいかもしれません。客観視のツールとして、写真や映像を使うのも一つの方法です。自分を変えるのは難しいですが、やったことがないことはやってみるしかない。うまくいかなくても、何ヶ月かしてやってみるとコッがつかめる場合もありますから。

続けなくてもいい〝実験〟をとりあえずやってみる

———社会の価値観は簡単には変わりません。近年は特に「こうあるべき」という抑圧も強まっています。他人の目が気になって流されがちなところを、そうではないと止まる勇気はどこから出せばいいんでしょう。

やってみるためには実験をしてみる、という意識を持つとやりやすそうです。これは実験なんだと思うと、べつに続けなくていいから、とりあえずやってみることができる。

 

———なるほど。まずは実験してみようと考えると、後ろ向きに捉えられがちなこともポジティブに考えて、決められそうです。

こういう実験をしてみましょう、という感じだと、なぜか大層なことじゃなくなるんですよね。踏み出しやすくなります。

決められなくても、立てるアンテナは自然と変わっている

———たとえば仕事のこととかで違和感があってモヤモヤしているとき、決定的な決断を下すためのきっかけなど、何かヒントはありますか?

たぶんない気がします。ただ、違和感が極まってきて、決断をどうしようと迷っているときと、そうでないときとは自分のアンテナの立ち方が違います。たとえば本を読んでいても入ってくる言葉は状況によって違うはずで、差し迫っている選択があるときに読むと、背中を押すような言葉が入ってくるし、そうではない状況ではそうではない言葉が入ってくる。それは向こうからやってくるものでもあるけれど、気づかないうちにキャッチしているんだと思います。無意識的に選んでいる。だからメソッドとしてこうやったら決まる、と整理しないほうが自然のような気がします。そうはいっても、たぶん立てるアンテナが自然と変わっていると思うので、何もしていないわけではないんですよね。

PROFILE

星野概念/ほしの・がいねん

1978年生まれ。精神科医など。執筆や音楽活動も行う。著書に『こころをそのまま感じられたら』(講談社)、『ないようである、かもしれない発酵ラブな精神科医の妄言』(ミシマ社)など。共著は『自由というサプリ』(リトルモア)など。

『クウネル』2024年11月号掲載 写真/目黒智子、取材・文/綿貫あかね、編集/黒澤弥生

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『クウネル』NO.129掲載

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