乳がんの闘病生活からパジャマブランドを立ち上げ【パリに暮らす日本人マダムvol.4】

多摩美術大学卒業後、スタイリストとして活躍。1999年の渡仏をきっかけにフォトグラファーに転身した篠あゆみさん。長いパリ生活で培った自分流の賢い暮らし方について、ほか人生観やライフスタイル、日々の楽しみなどを伺いました。

フランス・パリに住んでいる日本の女性たち6名のライフスタイルを紹介する書籍『パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方』(主婦と生活社)から紹介します。

ホームパーティやピクニック、小さな楽しみが暮らしの中に

篠あゆみ/しのあゆみ

多摩美術大学卒業後、スタイリストとして活躍。1999年の渡仏をきっかけにフォトグラファーに転身。雑誌やパリ在住の雨宮塔子さんなどの書籍の写真も手がける。2021年春、パジャマブランド『pageaérée(パージュアエレ)」を発表。

篠さんのパリでの暮らしはとても穏やかです。住まいはカフェやバーが立ち並ぶハイブリッドで緑豊かなエリアにあり、自宅からの眺めも最高。朝起きた瞬間から気持ちよく、下に降りれば好きなカフェにも行ける。10年前の離婚で身軽になり、今は愛猫チグルと気ままな暮らし。仕事がない時は、マルシェに足を運び、友人を招いて大好きな料理を振る舞います。

「暖かい季節はピクニックへ。私が住むパリには大きな公園あり、そこは森みたいで気持ちいいんです。フランス人もピクニックが大好きだから、結婚していたときも毎週末のようにピクニックに出かけていました。ちょっとした手料理を持ち寄り、おいしいワインがあればご機嫌です」

大好きなお茶。右は最近よく飲んでいるオーガニックのルイボスティー。左はベルギーのブリュッセルでしか購入できないCOMPTOIR FLORIAN(コントワール フロリアン)の紅茶。

愛用の食材。右から、長年 愛用しているオーガニックの白バルサミコ酢、マダガスカルの黒こしょう、ギリシャのエキストラヴァージンオリーブオイル、イル・ド・レ島のフルー ル・ド・セル(塩の花)。

7〜9月は名だたるミュージシャンのライブを楽しみながら、また野外映画も夏の風物詩になっています。

「パリは美術館が多く、区内の常設展はフリーで観られるので散歩のついでに訪れることも。アートが身近にあるのはうれしいですね」

好きな物だけに囲まれてシンプルに暮らす

自宅には蚤の市などでコツコツ集めたグラスや食器、旅先で出合った小物、大好きなアート作品、長年連れそう相棒のような家具が並びます。どれも篠さんの審美眼にかなった味わい深い物たち。好きな物だけに囲まれた心地いい空間で、チグルと過ごす時間を大切にしています。

「フランス人は身の丈に合った美意識を大切にしています。だから必然的にシンプルな暮らしになる。 人も物も抱え込まない、そんな生活に憧れますが、私自身はもともと物を買うのが大好きだから、持ち物の量は多めです。 最近になってようやく気分が変わり、物を買わなくなりました」

いたずら好きの愛猫チグルとの暮らしから普段は飾らないお花を、友人を招くときに飾ってみる。こんな少しの変化で空間が華やかになり、気分も上がる。

片づけが大の苦手という篠さん。先延ばしにしていたダウンサイジングを少しずつ始めたそうです。

「フランスはサステナブルの意識が高くて、昔から買い物にはエコバック持参は当たり前。週末になるとvide-grenier(屋根裏を空にする)というフリーマーケットがパリ市内のあちこちで開催され、街角には古着や布などを入れられるリサイクルボックスが設置されていて、さまざまなリサイクルが気軽にできます。循環型社会の仕組みが構築されているので、私自身、リサイクルやエコの意識が変わりました」

納品前は画像処理に追われるので、おうち時間ではデスクワークも必須。集中しているとかまってちゃんのチグルがPCにスリスリ。愛らしい姿を見ると気分転換に。

惹かれるのはいつも味わい深い古い物

日本で出合った江戸・明治時代の古伊万里の印判。貴重なものでも仕舞い込まずに使うのが篠さん流。

アンティークのタイルやペーパーウエイト、散歩中に拾った石ころなどもオブジェの一部に。チグルがいたずらすることを想定して並べている。

闘病をきっかけにブランドを立ち上げ新たなステージへ

そしてもうひとつ、篠さんが新しく始めたこと、それは物作りです。自身の闘病経験を生かし、素材とディテールにこだわった快適なパジャマブランド『パージュアエレ』を立ち上げました。

「2017年に乳がんを患い、日本で治療を行っていました。順調に回復しましたが、次に直腸がんが発覚して今度は抗がん剤治療が必要になり、きつい副作用で将来のことが全く考えられない状態に。つらい闘病生活は2年におよび、 日をやり過ごすのだけの日々。でもある日、からだにやさしいパジャマがあればいいのに、元気になったら作りたいな、と未来のことを考えられた瞬間がありました。これは絶対に実現したい!闘病中の小さな光が、ブランド立ち上げのきっかけでした」

闘病中にバンダナ代わりに頭に巻いて気分を上げていたというエルメスのスカーフ。もともとは母親にプレゼントしていた物で、ヴィンテージの物も。なかでも右のウサギキャラが描かれた河原シンスケさんデザインの物は重宝したそう。

その夢は、現在、パジャマの生産やハンドリングを行っている親会社との出合いで実現。生地は日本の伝統的な手法で作られた100%オーガニックの和ざらし。空気を含んだような特別な着心地とストレスフリーのやさしいディテールもこだわりです。デザインは蚤の市で見た100年前のリセの制服や、パリジェンヌやパリマダムたちの着こなしなど、闘病中に恋しくなったパリのライフスタイルから生まれています。

「無事治療を終えて、そのまま日本で暮らす選択肢もあったけれど、やっぱりパリが好き。早く帰りたいって思ったんですよね。長く病室にいたこともあって、パリの空気や日差し、風景がとっても恋しくなりました」

篠さんにとってパリは、ほっと安らぎを与えてくれる自分の居場所。ですがパリに移住して24年、そろそろ先のことを考える時期に入ったようです。

「フリーランスなので仕事の区切りは自分で決められるけど、いつまで続けられるかはわからない。チグルも17歳だし、日本に戻るなら私も元気に動けるうちにと思うようになりました。日本に戻るとしても、東京以外の選択肢も入れて模索中です。場所が変わると撮りたいものも変わる。そう考えると次のステージに進むのもいいかなって思っています」

自身のブランド『パージュアエレ』のパジャマ。洗うたびに風合いが増す二重ガーゼは肌当たりがやさしく心もほぐしてくれる。

パージュアエレのパジャマは外出着にもできるデザイン。篠さんも日常着に している。

好評発売中の本書では、このほかの魅力的な「パリに暮らす日本人マダムの暮らし」が

パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方

本書では、フランス・パリに住んでいる日本の女性たち6名にご登場いただきます。みなさんに共通するのは、ご自身の仕事のキャリアによって、現在の立場を築いた方々ということ。どの方々も、長いパリ生活で培った自分流の賢い暮らし方を実践しています。人生観やライフスタイル、日々の楽しみなどを伺いました。

〈登場〉
石井庸子さん(「カフェ キツネ ルーブル」勤務)/佐々木ひろみさん(「MAISON N.H. PARIS」デザイナー)/弓シャローさん(アーティスト、デザイナー)/篠あゆみさん(フォトグラファー)/角田雪子さん(「TSUNODA PARIS」デザイナー)/大塚博美さん(ファッションコーディネーター)

パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方』(主婦と生活社)
smile editors編 128P、1,760円

撮影/篠あゆみ、YOLLIKO SAITO、 編集・執筆/ 岩越千帆(smile editors)

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