65歳フォトグラファーのパリの家。日本の仕事をリセットしてパリに根を下ろすまで【パリに暮らす日本人マダムvol.3】

多摩美術大学卒業後、スタイリストとして活躍。1999年の渡仏をきっかけにフォトグラファーに転身した篠あゆみさん。長いパリ生活で培った自分流の賢い暮らし方について、ほか人生観やライフスタイル、日々の楽しみなどを伺いました。

フランス・パリに住んでいる日本の女性たち6名のライフスタイルを紹介する書籍『パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方』(主婦と生活社)から紹介します。

移住して24年、離れると恋しくなる心のオアシスでシンプルで心地いい暮らしを実践中

篠あゆみ/しのあゆみ

多摩美術大学卒業後、スタイリストとして活躍。1999年の渡仏をきっかけにフォトグラファーに転身。雑誌やパリ在住の雨宮塔子さんなどの書籍の写真も手がける。2021年春、パジャマブランド『pageaérée(パージュアエレ)」を発表。

東京でスタイリストとしてキャリアをスタートし、人気ミュージシャンや俳優、タレントなどを数多く担当していた多忙な時期に、パリへ移住した篠あゆみさん。現在はパリを拠点にフォトグラファーとして活躍しています。

「スタイリストをしていたころは、24時間フル稼働が当たり前の時代。そんな日々を何年も送るうちに、顔面神経痛、自律神経失調症になって心身がボロボロになっていました。こんな生活をずっと続けて、自分の人生に悔いがないのか……。でも、いいお仕事がきたらやりたくなるし、ズルズルと先延ばしになって結局何も変わらない。国を変えるぐらいの冒険をしないと仕切り直せない!と、思い立ちました」

頭に浮かんだのが大好きなパリ。すべての仕事をいったん止めて3か月の休養を取り、完全プライベートでパリに渡りました。

住まいは温かな日差しが注ぐおしゃれなアパルトマン。窓からは街路樹の緑が望める絶好の環境。壁には敬愛するフィリップ・ワイズベッカーの作品がセンスよく飾られている。1脚ずつ買い足した椅子やキャビネットなど、家具とは古い付き合い。

ベッドルームも朝から気持ちよい光が差し込むお気に入りの場所。

「清水の舞台から飛び降りるような気分でしたが、当時の私には必要な時間でした。小さなアパルトマンを借りて最初の2か月は語学学校へ。少し慣れてきた残りの1か月は自由に遊ぶ。そしたら帰るころには楽しくなって…………」

もともと趣味だったカメラを手に大好きなパリで写真を撮る日々。パリで活躍していたフォトグラファーの山本豊さんと再会し、ネガフィルムの魅力にもハマりました。こうした仕事以外の充実した時間を過ごしたことで、リセットの決心がついたそうです。

旅先や蚤の市、ギャラリーなどで購入したオブジェや小物をコーナーに。

「日本に戻ってすぐに、1年後にスタイリストを辞めてパリに移住することを宣言しました。先のことは考えてはいなかったけれど、いろいろなことがふっきれて新しいステージに心が躍っていましたね」

大好きなパリと写真が素敵な出会いをくれる

移住して篠さんのライフワークになっていったのが写真を撮ること。現像の道具を一式持ち込み、パリの風景や街で出会った人たちを撮影しながら作品作りに没頭しました。

「写真は趣味で、フォトグラファーになりたいなんて思ってもいませんでした。スタイリスト時代に自分だったらこう撮りたいみたいなものがあったから、自分の視点で撮ることがとにかく楽しくて。山本さんのお手伝いでいろんな現場にも連れて行ってもらい、とっても刺激になりました」

パリに来て1年くらいが経ち、「そろそろ仕事をしないと」と思い始めたころ、雨宮塔子さんの雑誌の連載の撮影オファーが舞い込みました。

 

師匠の山本さんをお手本に自作したドライフルーツは、かんきつを乾燥するまで放置するだけのお手軽なものだけど、飾るととっても絵になる。

「私でいいの?と思いましたが、雨宮さんも文章を本格的に書くのは初めてで、私も写真の勉強を始めたばかり。編集の方の『ふたりの成長の記録にしてください』という言葉に背中をおされてチャレンジさせていただきました。これが私のフォトグラファー人生の始まりです。ですから、雨宮さんとは特別な絆が生まれて、最近もパリで新刊の撮影をさせていただきました」

これをきっかけに、フォトグラファーとして活動の場を広げた篠さん。フランスだけでなく、欧州各国、エジプトやモロッコなどさまざまな国を訪れ、多くの人と出会って撮影してきました。

「アニエス・ベー、フィリップ・ワイズベッカー、ジェーン・バーキン……憧れの人にもたくさん出会えて幸せですね」

形が好きでついついコレクションしてしまう水差しはオブジェにも。散らかりがちな布類はおしゃれなかごに収納。

出番の少ないアクセサリーや小物も仕舞い込まずに素敵にディスプレイ。

個人主義だけど心地いいフランス人の気質がフィット

パリで暮らし始めたころに出会ったフランス人の男性と結婚。10年くらい前に別れましたが、彼との生活からフランス人の気質や向き合い方を学んだと振り返る篠さん。

最初に戸惑ったことは、自分の考えや思っていることを口に出してはっきり伝えること。仕事でもプライベートでも、あのときそう思ったとか、やっぱりというのはルール違反。日本では爆弾発言みたいになるようなことでも、フランスでは普通だと言います。納得がいかないことは議論になりますが、引きずらないので関係性が壊れることはありません。

17年前、友人の旦那さんの実家で生まれて、すぐに引き取ったチグルが暮らしの中心に。高齢になったチグルと過ごす時間を大切にしている。出張で家を空けたり、長い闘病生活中も友人たちが預かってくれて、今ではみんなのアイドル的存在に。

「フランスは個人主義だけどとってもフレンドリー。アパルトマンの中ですれ違う人とは必ずあいさつをするし、お店では店員さんと声をかけ合います。信号待ちしている時に、道路の向こう側の人と目があったらニッコリ笑顔を交わしたり、知らない人が冗談を言ってきたりすることも。だけど距離感を忘れないから心地いいんですよね。反対に怒りのエネルギーもすごくて、時々びっくりすることもあるけれど、人間らしくて私には合っています」

日本人の友人たちとも深いつながりが生まれる

パリで暮らす日本人同士の絆も強く、同じような苦労や悩みを相談したり助け合ったり、親戚みたいな関係を築いていて、篠さんにとっても支えになっています。東日本大震災の時には、「日本のために何かできないか」と友人が2011年の春にチャリティ団体“HOPE&LOVEPARIS(ホープアンドラブパリ)”を立ち上げました。篠さんも、初回からメンバーとして参加しています。

散歩が日課のようになっている篠さん。自宅付近にも街路樹があり、どこを切り取っても絵になる。コーディネートはリゼッタのリネンワンピー スにステラマッカートニーのパンツ、A.P.C.のサンダルを合わせて。

「毎年、パリと東京でチャリティイベントを行っていて、そこでつながりが広がっています。私は国内外で活動しているフォトグラファーが撮影を行う“写真館”に参加していますが、寄付や協賛を集たりするのは大変なようで、より絆も深まっているようです。また、パリはボランティアは特別なことではなく日常にあって、リタイアした人がボランティアに参加するのは普通のこと。ファッションのグランメゾンも気持ちよく協賛してくれました。ありがたいですよね」

篠あゆみさんの記事は、【パリに暮らす日本人マダムvol.4】に続きます。

好評発売中の本書では、このほかの魅力的な「パリに暮らす日本人マダムの暮らし」が

パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方

本書では、フランス・パリに住んでいる日本の女性たち6名にご登場いただきます。みなさんに共通するのは、ご自身の仕事のキャリアによって、現在の立場を築いた方々ということ。どの方々も、長いパリ生活で培った自分流の賢い暮らし方を実践しています。人生観やライフスタイル、日々の楽しみなどを伺いました。

〈登場〉
石井庸子さん(「カフェ キツネ ルーブル」勤務)/佐々木ひろみさん(「MAISON N.H. PARIS」デザイナー)/弓シャローさん(アーティスト、デザイナー)/篠あゆみさん(フォトグラファー)/角田雪子さん(「TSUNODA PARIS」デザイナー)/大塚博美さん(ファッションコーディネーター)

パリに暮らす日本人マダムの 「手放す幸せ」の見つけ方』(主婦と生活社)
smile editors編 128P、1,760円

撮影/篠あゆみ、YOLLIKO SAITO、 編集・執筆/ 岩越千帆(smile editors)

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