役所広司さんの今好きな映画3本 「いい映画は、がんばろう!という気持ちにさせてくれる」

俳優、監督、脚本家……映画の世界で活躍する方々が、心をときめかせた映画についてうかがいます。今回は日本を代表する俳優、役所広司さんに映画への想いと新作映画について、今好きな映画3選をお聞きしました。

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PROFILE

役所広司/やくしょこうじ

1956年長崎県生まれ。’96年『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内の映画賞で主演男優賞を独占。近年では2019年のアジア全域版アカデミー賞、第13回アジア・フィルム・アワードで、特別賞Excellence in Asian Cinema Awardと『孤狼の血』での主演男優賞をダブル受賞。’20年シカゴ国際映画祭では観客賞のほか、’01年の『赤い橋の下のぬるい水』主演男優賞以来、19年ぶりに『すばらしき世界』での最優秀演技賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を受ける。そして’23年『PERFECT DAYS』では第76回カンヌ国際映画祭において最優秀男優賞を受賞、日本を代表する俳優。

役所広司さんが今好きな映画3本

役所さんに、好きな映画を質問。あえて3作選んでいただけますか?

「まずは、ヴェンダース監督の作品からですかね。『パリ、テキサス』(’84年)は好きですよ。それこそ、『PERFECT DAYS』の平山のようにハリー・ディーン・スタントンが演じた主人公もセリフが少なくて、ただテキサスの荒野を歩いているだけ。でも、そういう映像を見せられながら、それでも何かが起こることを期待して見続けられる。その映画の力が良かったです。そして、風景=絵と音楽というものを強く感じました」

『パリ、テキサス』

荒野を放浪する男と妻子の再会を描くロードムービー。「『PERFECT DAYS』同様に、監督特有の音楽センスが印象的ですね」/’84年 監督:ヴィム・ヴェンダース 出演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー

「パリ、テキサス【2Kレストア版】 Blu-ray」5,280円 発売元:TCエンタテインメント 販売元:TCエンタテインメント 提供:東北新社 © Wim Wenders Stiftung - Argos Films 2014

日本映画への思いも気になるところですが……。

「やはり黒澤明監督は好きです。なかでも『赤ひげ』(’65年)はモノクローム作品ですが、診療所のセットが美しくて。床板とかねぇ。どんな素材を使っているのかわからないけれど、何十年も風雪にさらされた感じとか、素晴らしい。それに物語も良かった。若い医者が患者との触れ合いによって成長していく姿。師である赤ひげという存在。こういう先生と出会えると、人生が変わるんだろうなぁということを、すごく感じました。何度観ても新しい発見のある映画です」

『赤ひげ』

山本周五郎の『赤ひげ診療譚』が原作。江戸時代の小石川養生所を舞台に、赤ひげと呼ばれる所長と青年医師の心の交流を描く。「病と命の尊厳を、強く考えさせられました」/’65年 監督:黒澤明 出演:三船敏郎、加山雄三

「赤ひげ〈東宝DVD名作セレクション〉」DVD¥2,750 発売・販売元:東宝  ©1965 TOHO CO.,LTD

3作目は、イラン映画の『運動靴と赤い金魚』(’97年)。

「公開から数年後に観たのですが、こういう貧乏は、今の日本ではリアリティを持っては描けないのかなぁと思った記憶があります。昭和30年代に少年期を過ごした僕なんかには、運動靴がどんなに高価で大切なのかが身にしみてわかります。マラソン大会の賞品の運動靴を獲得するためにがんばるお兄ちゃんとかね。何度観ても感動ですよ」

『運動靴と赤い金魚』

妹の靴をなくした兄が、マラソン大会の賞品が靴だと知り、大会に出場するが……。「子どもたちの自然な演技に、何度観ても感動します」/’97年 監督:マジッド・マジディ 出演:アミル・ナージ、ミル゠ファロク・ハシェミアン

「運動靴と赤い金魚」DVD¥1,572 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2021 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

いい映画は、がんばろう!という気持ちにさせてくれる

役所さんの幼少期の映画体験は、どのようなものだったのでしょう。

「子どもの頃、ばあちゃんがよく子守りがてらに映画館に連れて行ってくれて。そこで観たのは東映の時代劇が多かったですね。大川橋蔵さん主演の『新吾十番勝負』とか中村錦之助さんの『宮本武蔵』とか。どちらもシリーズ物でしたから、何本か観ています。たぶん、ばあちゃんが橋蔵さんや錦之助さんが好きだったんですね。

そもそも、家業が飲料を製造し、いろいろなお店に配達していました。僕も手伝って、映画館に配達しに行ったりして。時々、『ちょっと観ていきなよ』なんて言われて観たのが片岡千恵蔵さん主演の『多羅尾伴内』でした」

映画館にまつわるエピソードもまだまだあるよう。

「両親の唯一のデートが、映画館のオールナイト上映を2人で見に行くことだったんですよ。子どもたちを寝かしつけてから。でも、5人兄弟で末っ子の僕は、ぐずって起きているので仕方なく連れて行くけど、途中で寝ちゃう。で、帰りは映画館の隣のラーメン屋でラーメンを食べさせてもらって、また寝てしまう。映画よりラーメンのほうが記憶に残っていて。あの頃、オールナイトでも映画館がお客でいっぱいだったなぁ」

ジャケット10万4,500円(JHON SMEDLEY)、 シャツ(スタイリスト私物)

役所さんをつくってきた映画作品の数々。そして話は好きな映画俳優、監督へと続きます。

「〝俳優オリンピック〟があったら、日本代表は三船敏郎さんでしょ。それと自分の師匠でもある仲代達矢さん。90歳にして演劇の舞台に立っている。すごいです。監督は好きな作品の監督も入りますが、小津安二郎さんも素晴らしい。人殺しも血もない清潔な映画ですけど、深いドラマがある。正直、子どもの頃に観ても良さがわかりませんでしたが、そういう意味で『PERFECT DAYS』も『子どもが観たらどう感じる?』とは思います。どの作品も年をとってから観るとぜんぜん違うんですよね」

役所さんの人生を彩る映画の数々。それはどのような存在なのでしょう。

「自分の仕事ではありますが、いい映画を観ると『お客さんにこんなに感動を与える仕事の端くれに自分もいるのだから、がんばろう!』という気持ちにさせてくれる。勇気を与えてくれるもの、ですね」

生きる習慣を見つめる『PERFECT DAYS』

名匠ヴィム・ヴェンダースが、東京・渋谷の公衆トイレの清掃員平山(役所広司)の日々を描いた作品。淡々と繰り返す毎日に、思いがけない出来事が起き、平山の過去を静かに揺らす。第76回カンヌ国際映画祭にて最優秀男優賞を受賞。12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。

監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬 製作:柳井康治 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和 製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド 2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124分 ©︎ 2023 MASTER MIND Ltd.  perfectdays-movie.jp

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『クウネル』1月号掲載 写真/新津保 建秀、スタイリング/伊賀大介、ヘア&メイク/勇見勝彦、取材・文/金子裕子、編集/河田実紀

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『クウネル』No.124掲載

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