日本初!?ケータリング会社【桜井莞子さんが70歳でレストランを開くまでvol.4】

クウネル2023年7月号に登場の桜井莞子さん。70歳で青山に家庭料理店『のみやパロル』をオープンさせたかっこいいマチュア世代です。広告会社で働いたのち、料理の仕事をするようになり雑誌『Olive』の料理コーナーを担当し……。ワクワクに満ちた人生を振り返った著書『79歳、食べて飲んで笑って』(産業編集センター)が話題です。

70代で青山に「パロル」を作るまでの軌跡を『79歳、食べて飲んで笑って』からご紹介します。第4回目は、雑誌『Olive』の連載をきっかけに本を出版し、その後、まだ新しかったケータリング会社を立ち上げるまでの話。

エミー桜井、『Olive』の料理ページを担当!

雑誌『Olive』のキャッチコピーは「Magazine for City Girls」。ファッションだけでなく音楽、映画、インテリアなどサブカルチャーの要素をふんだんに取り入れたスタイルで一世を風靡しました。『Olive』を愛読するティーンはいわゆる〝新人類”世代、昭和40年代に生まれた人たちで「オリーブ少女」と呼ばれていました。

70年代に『anan』や『non・no』を読んで「アンノン族」という言葉を生みだした女性たちとはまた違う、新しい時代の女の子像が提示された雑誌でした。新しい時代にふさわしいポップでキャッチーな誌面は、堀内誠一さんがタイトルロゴと表紙を担当し、アートディレクションを新谷雅弘さんが担当していました。

今見てもエッジが効いたお洒落な誌面ですよね。そんな『Olive』で料理コーナーを担当することになった私。初めて作ったのはオムレツ……それも大きくて平たい、ワラジみたいなオムレツ……今思い出しても恥ずかしい上に、付けられたペンネームが「エミー桜井」。笑っちゃうわよね。それでも試行錯誤しながら、なんとかかんとか料理のレシピを披露しているうちに、ある時文化出版の方から「料理本を出しませんか?」というお誘いの電話をいただきました。

刺激的な料理の仕事

初めての本の撮影は、我が家の台所で。テーブルクロス、器、ほとんど私の私物を使い、足りないものは文化出版局の担当者さんが貸してくれての撮影でした。まだ「スタイリスト」と呼べる人がそんなに多くいなかったのでしょうね。

育った環境も、社会人になってからもデザインや制作の世界にどっぷり浸かっていたわけですから、私には知らず知らずのうちに、演出やコーディネートする力がある程度備わっていたのだと思います。食器や雑貨も好きだった私にとって、自分でスタイリングすることは思いのほか楽しく、やりがいのあることでした。

そうこうするうちにコマーシャルの仕事なども入り始め、いつものごとく深く考えずに引き受けているうちに、あれよという間に仕事は増えていきました。編集者の石川次郎さん、淀川美代子さん、カメラマンの沢渡朔さん、そしてマガジンハウスの現・会長、木滑良久さん……。マガジンハウスではいろいろな方と出会い、お仕事をご一緒する機会に恵まれました。雑誌文化が頂点に向かって上り詰めている時代でしたから、どんな現場も刺激的で楽しかったですね。

ある時、木滑良久さんから「NYで流行しているケータリングが面白いぞ。これから日本でもヒットするかもしれないね」という話を聞きました。アートディレクターの渡邊かをるさんからは、アメリカでは砂漠での撮影現場にケータリングカーがやってきて、車からボーイさんが降りて、食器をセットしてワインを注いでくれ、ランチタイムは1時間半かけてみんなで食事するという話も聞きました。

例え何もない場所でもちゃんと食事しましょうという心意気、その方が気持ちよく仕事ができるじゃない? そういう提案が、日本でもできたらいいな、と思いました。

調べているうちに、ジェラルミンのケータリングカーで営業するのもいいなと興味を持ちましたが、とても高額で手が出ない。それでもどうしても現地を見てみたいという好奇心が勝り、私はニューヨークに飛び、ケータリング会社を訪ねていくことにしました。そこで見学させていただいた現地のケータリングビジネスには衝撃を受けましたね。

グロリアフーズという大手のケータリング会社ではしっかりとした厨房できちんと調理が行われ、美しいボーイさんが何人もいてサービスを担当しており、テーブルセッティングはもちろん、会場もテーマに合わせて細部までコーディネートされています。

個人でやっているケータリングサービスの事務所では、さまざまな演出に対応する小物がぎっしりと集められていました。また、マイケル・ジャクソンの自宅でのバースデイパーティに招かれた日本ワーナーの社長からは、小さな機関車が走ってきてケーキの蝋燭に火をつけるというケータリングの演出の話を聞いたりもしました。日本には入って来ていないそうしたサービスや演出の数々は、私の想像をはるかに凌駕していました。

ニューヨークから帰り、私は成城の自宅でケータリング会社のパロルを立ち上げます。私は40歳になっていました。

詳しくは発売中の本書を

『79歳、食べて飲んで笑って 〜人生で大切なことは、みんな料理に教わった』(産業編集センター)

年齢を重ねるって楽しい! 70代でお店をオープン、伊豆と青山で2拠点生活。食通に愛される青山のごはんや・のみや「パロル」店主・桜井莞子さんによる、“好き”であふれた日々を送るための処方箋。桜井さんが自分を形づくってきた人や物事、さまざまな料理やお酒について語る1冊です。桜井さんの思い出の料理10品のレシピも公開。

『79歳、食べて飲んで笑って 〜人生で大切なことは、みんな料理に教わった』(産業編集センター)

クウネルのYouTubeに桜井さん登場!

発売中のクウネル7月号で「じっくり手間をかけて、定番食材をごちそうに。」の企画に登場の桜井莞子さん。 紹介してくれた4品の中から、「パロル」でも人気の〈しらたきとピーマンのきんぴら〉の極意は?

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〈撮影/田川友彦 聞き手/田邊詩野(子鹿社)〉
※本記事は『79歳、食べて飲んで笑って 〜人生で大切なことは、みんな料理に教わった』(産業編集センター)からの抜粋です。

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