【コウケンテツさんの運命の本】煮込み料理の合間に読む、苦しいときに導いてくれた3冊とは

ふとしたきっかけで読んだ本が、その後の生き方に大きな影響を与えていたり、転機になったり......。今回はあらゆるメディアで大活躍中の料理家・コウケンテツさんが運命の出合いをした本について伺いました。

PROFILE

コウケンテツ

旬の食材を生かした簡単でおいしい家庭料理を提案し、テレビや雑誌、講演会などで活躍中。登録者数158万人のYouTubeチャンネルも話題。

人生の不条理を認め、開き直れる力をもらう

コウケンテツさんが本を読むのは煮込み料理の合間や移動中です。読む本は決まって、脳がかき回されるほどの衝撃を受けた30冊ほどのいずれか。なかでも、苦しいときに導いてくれた3冊は別格だといいます。

「15歳でプロテニス選手になろうと思い立ち、高校を中退して練習に熱中するも身体を壊して19歳で挫折。療養しながら引きこもる中、手にしたのが『変身』です。13歳で初めて読んだときは、突然虫になった事実を冷静に受け止める主人公に、なんでやねんと突っ込んだりもしましたが、再読してそれが腑に落ちた。世の中は不条理。でもそれが人生だと、逆境を受け入れる前向きな気持ちになれたんです」

『変身 』カフカ

ある朝、巨大な毒虫になった男ザムザが、自身を見つめる不条理小説。「読書家の次兄が、生きるヒントになると揃えてくれた10冊のうちの1冊。この装丁にあるカフカのKのサインがかっこよくて、真似しました」(新潮文庫)

同じ頃『マルコムX自伝』の虜にもなります。この本もページがちぎれたり、置き忘れたりするたびに買い直したため何冊目か覚えていないそう。

「僕は韓国にルーツを持つこともあって、黒人解放運動をリードしたマルコムにも共感するところがあったんです。彼が獄中の読書で学びを得たくだりも、療養中に本に救われている自分に重なりました。彼にはさまざまなことを教わりましたね。隠された真実を見極めること、自分を律し人として誠実であること、成長のためには批判にも耳を傾けること。読みながら体中が熱くなった体験はこの本が初めてでした」

『完訳 マルコムX自伝』上・下 マルコムX

米黒人解放運動のカリスマとなったイスラム指導者の自伝。「執筆協力のアレックス・ヘイリーによるエピローグも。人間マルコムが描かれ圧巻。もし彼と一緒に食事するなら南部の名物料理、なまずフライを食べたい」(中公文庫)

療養を終えると同時に実家の家業を助けるべく、大学進学をあきらめて働き始めます。

「喫茶店や警備員、工場など昼夜の仕事を掛け持ちして一日20時間働く日々。社会の最下層にいるように感じたときガツンとやられたのが映画『ファイト・クラブ』。原作を貪るように読んで、謎の男タイラーは我々の代弁者だと思いました。この本は間違ったこともまかり通る不公平な世の中で、その闇を暴くところが痛快。自分の価値観を跡形もなく崩された上でどう生きるのかを問われ、新しい自分を再構築できた。その点で『変身』や『マルコムX自伝』にも通じるところがあります」

『ファイト・クラブ』チャック・パラニューク

殴り、殴られ、生を実感する秘密クラブが暴徒化し、全米を震撼させる。文庫本は読み込みすぎて数ページちぎれてしまった。「パラニュークは倫理観を吹き飛ばし、社会問題をむき出しにしてみせカルト的人気がある。日本でももっと翻訳されないかと」(早川書房)

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『クウネル』No.118掲載

私の人生を変えた本

  • 発売日 : 2022年11月18日
  • 価格 : 980円(税込) (税込)

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