主婦歴50年と大ベテランの坂井より子さん。2022年2月に新刊『飾らない。76歳、坂井より子の今を楽しむ生き方』が上梓されました。
坂井さんにとって3冊目となる本書。いままでよりも深く、これまでの人生のことなども綴られています。また、なかには夫やふたりの子どもたちからの言葉もあり、坂井さんの生き方、暮らしぶり、笑顔の秘訣を垣間見ることができます。
著書には59のエッセイが収められていますが、その一部をシリーズでご紹介してきました。今回はインタビューの前編をお届けします。
■子どもが独立して夫が退職。「自由気ままにひとり暮らしを楽しみました」
ーー著書『飾らない。』拝読させていただきました。坂井さんにとって3冊目の著書となりますが、今回は暮らしの知恵やアイデアなどの実用というよりは、エッセイが主体ということもあり、坂井さんの人となりや生き方をグッと掘り下げた内容ですね。要所要所にある、ご家族からのお言葉も素敵でした。
坂井さん(以下、坂井):すべてをさらけ出しているみたいでお恥ずかしいんですけどね。主人や子どもたちの言葉も紹介したいとスタッフの皆さんが言ってくださって。私はほとんど手を入れていないので、家族のありのままの言葉なんです。
ーー坂井さんの暮らしというと、なにより三世帯9人家族というのが印象的ですね。
坂井:そうなんです。玄関やキッチンなどの水回りは完全に別だけれど、ワンフロアずつ3階建てです。
でも、一時期は私がほぼひとり暮らしのようなこともあったんですよ。子どもたちが独立してから夫が退職し、夫が農業をしたいからと言って。縁があって新潟に行くことになったのです。
私はその間、葉山でひとり暮らし。20年弱くらい前のことかしら。自由気ままにのんびりとして、夜な夜なお友達と麻雀をしていたこともありましたね(笑)
しばらくそんな生活が続いた後、アメリカにいた娘が家族を連れて戻ってくることになって。娘の子どもふたりが小さかったため夫も戻ってきて、しばらくは一緒に暮らしていたんです。
その後、息子も家族を連れて葉山に戻ってくることになりました。近所に家を探して暮らしはじめ、ときどきごはんを食べに来る生活が続きましたね。
そんな折、私たちが住んでいた家が古かったこともあり、建て直して三世帯で一緒に暮らそうという運びになったんです。
ーーなるほど。そういった経緯があっての現在の暮らしなのですね。
坂井:そう。無理にどうこうしようということはなく、自然に身を任せていたらこうなったんですよ。本当に、人生って不思議なものですよね。
■子どもたちにガミガミと怒っていた時期も。「台所に鏡を置くのがおすすめです」
ーー三世帯で暮らすにあたり、程よい距離感を大事にしているとご著書でもたびたび語られていますね。
坂井: なんでもかんでも一緒だと、べったりして疲れちゃいますよね。うちの場合は、娘とお嫁ちゃんがいて、息子と婿殿がいる。当然、気遣いも大事だと思っています。
平日は全員で夕食を食べるのですが、片付けは主婦3人で。娘はいつも残り物を整理してくれて、娘家族の次の日のお弁当用に残ったおかずを詰めていくのだけど「あ、それ明日も食べたかったのになぁ~」ということも。でもまあいいかってね(笑)。
私も元来、細かいことは気にしないし、娘もお嫁ちゃんもおおらかなんです。息子や婿殿も同じタイプ。
細かいことは言わないけど、感謝の気持ちをさりげなく伝えたり、敬意や配慮をすることがうまくいく秘訣なのかもしれませんね。
ーー御本の印象通り、お話しさせていただいてもずっと穏やかですが、ときにはガミガミしていたこともあったそうですね。とても意外です。
坂井: もちろんありましたよ。子どもが小さいときは、勉強をしなさい!片付けをしなさい!ってね。
ーーそれで、台所に鏡を置いたというお話しでしたよね。
坂井:そう。怒り狂ってオニババみたいな顔を見ると嫌気がさしてね。鏡を置いてからはずいぶんとマシになってきましたね。客観的に見ると冷静になれるところがあるのかもしれません。
いまでこそ娘や息子にガミガミ言うことなんてないけれど、孫たちに思うことがあっても言わないですね。食事中のお行儀がちょっとくらい悪くても、驚くほど大きな耳飾りをつけていてもね(笑)。
それぞれにお父さんとお母さんがいるから、私や夫がとやかく言うことではない。夫と改まって話したわけではないけど、互いにそう感じているんじゃないかなと思いますね。
■家族9人の食事作り。「食卓の準備は孫の毎日の仕事です」
ーー平日の夕食はこのテーブルで9人でいただくとのこと、ワイワイとしていいですね。
坂井: そうですね。娘もお嫁ちゃんもフルタイムで仕事をしているので、平日の夕食作りは私が担当しています。
お膳の準備は孫の海(高校生の男の子)の役割。最近は勉強やら習い事やらで忙しいだろうに、家にいるときは必ず夕方になるとここへ降りてきて、何も言わずに準備をしてくれます。小さなころからやっているから、身に沁みついているのかもしれませんね。
ーー献立は最低3品とのこと。大皿料理が多いのですね。
坂井: テーブルにドンと並べて、食べたいものを食べたい量、取り分けていただきます。
今でこそ孫たちも大きくなったけれど、孫はもちろん、娘や息子が幼いころから、特別に子ども向けの料理をというふうに意識はしていなかったですね。
ーー「食事スタイルは大人が主役」という章でも紹介されていましたね。
坂井: そうなんです。だから我が家では最初に出ているのはおかずだけ。お酒を飲みながら(飲まない人や子どもはお水)おかずを食べ、おかずをすべて食べ終わったら、ごはんとお味噌汁をいただきます。
そのため我が家では、ごはんのお供、お漬物だったり納豆だったり、海苔などが大活躍。
でもね、しっかりおかずを食べたあとだから、ごはんはみんな軽めで十分満足できます。
子どもがまだ小さかったころ、晩酌をする主人に最初からごはんを出したら急かされるようで嫌だと言われて。それから自然な流れでこのスタイルになって、いまでもずっとそれが続いているんです。
■「料理はあるもので何とかする。考えたり工夫したりするのが楽しいんですね」
ーー家族のみなさんが好きな十八番料理的なメニューはありますか?
坂井: そうねぇ、何かしら。「カリカリポーク」は人気ですね。
豚もも薄切り肉に粉を付けて油で揚げたものに、玉ねぎのみじん切りがたっぷり入った甘酢ダレをかけたもの。さっぱりしていて食べやすいんですね。
ーー聞いているだけでおいしそうですね!
坂井: 昔から、夫の職場の同僚が突然ごはんを食べに来たり、子どもの友達が一緒にごはんを食べたりすることも多かったので、そのとき家にあるものでなんとかするということが多かったですね。
たとえば、レタスでサラダを作ろうとしたけれど、この量じゃとても足りないわというときは、キャベツをサッとゆでて水けをしっかり絞ってレタスと合わせます。食感の変化も出ておいしいんですよ。
冷蔵庫にもやししかない!というときも、ひげ根を丁寧にとってサッと炒めれば、おもてなし料理にもなりますよ。
お料理は毎日のことだけれど、そんなふうに工夫したり考えたりしてできるのは楽しいですよね。
→インタビューは後半に続きます。
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飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方
主婦歴50年の坂井より子さんの3冊目の著書でこれまでの人生を深く綴った初めての本となる。夫との出会いや子育てののこと、3世帯暮らしとなってからの心境の変化や、家族9人分の食事づくりのことなどが紹介されている。
『飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方』(家の光協会)
聞き手/結城 歩