50代のクウネル世代にとって、今後の資産形成は重要な課題。「投資」についても考えている方が多いと思います。そもそも投資とは?『僕が考える投資について』(祥伝社)を上梓した松浦弥太郎さんの、投資についての明快で健やかなアプローチをご紹介します。そこで見つかるのは、自分の価値を高め、豊かに生きるためのヒントです。前回のどんなに収入が少ないときでも自分への投資はつづけていました。に引き続きシリーズ第4回になります。
松浦弥太郎さんが考える投資
「職業 自分」でいるために
初めてお仕事をするときなど、肩書きを確認されることがあります。そういうときはたいてい「エッセイスト」や「文筆家」と答えるのですが、心の中ではそっと「松浦弥太郎です」と答えています。
僕は、「職業 松浦弥太郎」でありたいと思っているのです。
肩書きが自分の名前なんておかしい、と思われるかもしれませんが、これは「オンリーワンの仕事をしていることを証明したい」ということとイコールです。
仕事において、ある分野のプロ、あるいは特定の役割を担う存在ではなく、ひとりの人間としてありつづけたいと僕は考えています。要は、「文筆家」というより「松浦弥太郎」としてお役に立って生きていきたいと。
たとえば、自己紹介で「プログラマーです」と名乗れば、当然「プログラムを作成する人」だと認識されます。それは間違ってはいないかもしれませんが、ある種、認識の枠ができてしまうのです。極端な話ですが、「職業 プログラマー」の人に消費財開発のような仕事は振ってこないでしょう。
「営業」「経理」「編集者」などもすべて同じで、あらゆる肩書きが「この人はこういう仕事をする人」と規定します。それはプロフェッショナルであることを証明する一方で、可能性を閉じてしまうことでもあるわけです。
僕は自分で自分の枠を意識したこともありませんし、特定の仕事だけを突き詰めていこうとも考えていません。強いて言うなら、自分がどう感じたか、どう考えたかといった「松浦弥太郎のフィルター」を通してあたらしい価値を見つけていきたい、といったところでしょうか。
それは「職業 松浦弥太郎」ということで、つまりは肩書きに縛られずに生きていきたいんですね。
「職業 自分」を意識することで素敵な出会いも
さて、「職業 自分」でいるためには、そんな自分を求めてくれる人がいることが欠かせません。ひとりでは、「職業 自分」になれないのです。
そして、そんなお声がけは過去の行動や仕事が運んできてくれるものです。
僕の場合で言うと、書店経営や雑誌の編集長、執筆活動、商品開発、経営者、企業のアドバイザー、最近では映画監督など、幅広く仕事をしてきました。そのどれもが、以前かかわった仕事が誰かのお役に立ち、よろこんでいただけたからこそ生まれた仕事です。
「あのときいい仕事をした松浦弥太郎に、これをやらせてみよう」と声がかかり、経験のない仕事でも期待して任せていただけた。だから、どんな肩書きもフィットしないくらい、いろいろな仕事にかかわることができたのです。
これは、目の前の仕事に自分を投資することで、次の仕事という大きなリターンをいただけたと言い換えることもできます。
仕事に打ち込み、自分を投資することで得られるリターンは、次の仕事です。
お役に立つ。自分の個性や色が評価され、あたらしい仕事を任される。この流れを繰り返すことで、「職業 自分」という領域に行くことができるのです。
だからこそ、僕は「もっと立派な肩書きがほしい」という野心を持ち合わせていないのでしょう。ただ「松浦弥太郎」として必死に働いてきたからこそ、おもしろい仕事や、すてきな人々に巡り会えたのですから。
「職業 自分」は、僕のようにフリーランスで仕事をしている人や表現活動をしている人だけの話ではありません。企業に勤めている人も、「職業 自分」を意識することでさらにいい仕事に巡り会うことができるはずです。
少し前までの社会には、みんな横並びで同じように生きるべきだ、出る杭になってはいけないという雰囲気がありましたが、今はそれぞれのカラーを出し、肩書きに頼らず、自分の名前で仕事をしようという時代になっています。
個性や尖った能力が評価されるようにもなっていますし、「あの仕事をしたあの人に任せてみよう」とバイネーム(名指し)で任されることも多いでしょう。
「そんな生き方、自分には関係ない」と思い込まずに、顔を上げて周りを見渡してみてください。「職業 自分」を目指して仕事に挑戦している人たちはたくさんいますし、自分もできそうだと思えるフィールドがきっと見つかるはずです。
イラスト/ミヤタタカシ
※本記事は『僕が考える投資について』(祥伝社刊)からの抜粋です。
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