年月を経てもなお、多くの人の心を捉える名作の数々。放送開始から11年目を迎えた番組「100分de名著」(NHK・Eテレ)で紹介された中から、クウネル世代に読んでほしい名作を番組プロデューサーの秋吉吉彦さんと、同MCの安部みちこさんにうかがいます。
紹介してくれるのは・・・
秋満吉彦さん
同番組プロデューサー。1965年大分県生まれ。熊本大学大学院文学研究科修了後、NHK入局。著書に『行く先はいつも名著が教えてくれる』 (日本実業出版社)。
安部みちこさん
同番組MC。愛媛県生まれ。2000年にNHK入局。幼い頃はホームズや明智小五郎のファン、 現在は夏目漱石や正岡子規など愛媛ゆかりの作家を愛読。2児の母。
名著は時代をあぶり出す。
『自省録』
マルクス・アウレリウス
『自省録』はローマ社会の頂点に立つ皇帝が、他人を責めず社会を責めず、自分を省みて書き遺したもの。人としてのその真摯な生き方に感銘を受け、私たちも倣うべきだと猛省。自分自身、家計簿の脇に短い反省文を毎日書くようになりました。確かMCの伊集院光さんも番組を機に、3行日記を始められたはずです。 (安部さん)
著は時代や場所が違っても、必ず心に響き、学ぶものがある。だからリアルな実践の書としても読めるわけですよね。 (秋満さん)
コロナ禍の中、読書に勇気を与えてくれた
『モモ』
ミヒャエル・エンデ
モモは人の話をよく聞く、カウンセラーのような力を持つ受け身の女の子。それが謎の灰色の男たちに脅され、恐怖の極点に達すると、いったんすべてを忘れようと眠った後、一気に主体的に立ち上がって行動する。ちっぽけなモモの命の底にある力強さに揺さぶられ、とても勇気づけられます(秋満さん)
現代社会でも、いろいろと我慢を強いられる場面は多い。だからある転機を経て、再び立ち上がる力をまざまざと見せてくれるストーリーは痛快でした。困難な状況に立ち向かうための勇気を与えてくれるのだと思います。 (安部さん)
中高年の女性層を意識して選んだ作品。
『戦争は女の顔をしていない』
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
特に女性に読んでいただきたい一冊。女性作家が、独ソ戦に出兵した500人以上の女性一人一人に話を聞き、検閲や取材拒否との葛藤の中でまとめた証言文学です。普段の新聞やネットの記事を見るのとは、やはり胸への迫り方が違いました。それこそ、銃にすみれの花を結びつけていたら怒られたとか、戦場でも自分らしさを失わない女性兵士の日常が描かれれば描かれるほど、戦争の非人間性が浮き彫りになっていく。男性はつい愛国心を強調したりしますが、論理ではなく、人間の普通にある感情や本音をきちんと掬い上げてくれていて、心が揺さぶられまくりでした。 (秋満さん)
確かに、すごくリアルでした。 三つ編みを切るときが辛かったとか、 男性物の下着をつけるのが嫌だったとか、そういった描写の入った戦争の本を読んだことはなかったので。さらには著者が存命で、今も筆で戦ってらっ しゃるっていうことが、一番、感動したことかもしれません。 (安部さん)
110冊以上の 名著を紹介してきた 「100分de名著」。
E テレで毎週月曜日 午後 10:25 〜放映中。
2011年の東日本大震災直後にスタートしたNHK・Eテレの番組 「100分de名著」。古今東西の“名著”を、25分×4回、100分で読み解いていきます。毎回、斬新な視点で作品を紹介してくれる指南役とMCの伊集院光さん、安部アナとの掛け合いが楽しい。番組テキストとHPも充実。https://www.nhk.or.jp/meicho/
写真 加瀬健太郎 / イラストレーション Anri Yamada / 編集・文 友永文博 / 再編集 久保田千晴