ローカルだけどモダン。暮らしがもっと愛おしくなる。「民藝の100年」開催中

民藝の100年

「民藝」という言葉の生みの親、柳宗悦の没後60年を記念して、現在、東京国立近代美術館で開催されている展覧会、柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」。人々が暮らしで使ってきた道具や手仕事を見て、買って楽しめる展示の様子をレポートします。

民藝の100年
展示風景

”民藝”とは民衆的工芸を略した言葉。柳宗悦のほか、濱田庄司、河井寛次郎が作り出した美の概念です。日常の生活道具の中に潜む美を見出し、工芸を通して生活と社会を美的に変革しようと「民藝運動」が生まれました。本展では彼らが蒐集した陶磁器、染織、木工、蓑、かごなどの暮らしの道具、大津絵といった民画のコレクション、出版物、写真、映像など、総点数450点を超える作品と資料が展示されています。

民藝の100年
展示風景

今回注目するのは、「美術館(日本民藝館)」「出版(雑誌『工藝』など)」「流通(たくみ工藝店)」という3本柱による活動。そして地方の人やモノ、情報をつないだ民藝のローカルネットワーク。民藝がどのような背景で生まれ、社会の中でどのように変化し、受け入れられてきたか、紐解くような展示になっています。

民藝運動がスタートした1910年代から、国内外を移動し、民藝を発掘・蒐集していった1920年代。そして地方の伝統的な生活文化を再評価した1930年代までは、柳宗悦らがどのように民藝運動を進めていったかがよく分かります。

民藝の100年
柳が陶磁器の美に開眼するきっかけになった壺。《染付秋草文面取壺》( 瓢形瓶(ひょうけいへい)部分) 朝鮮半島 朝鮮時代 18世紀前半 日本民藝館
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イギリスの伝統的な陶器の専門書を見て以来、柳らが夢中になったスリップウェア。《スリップウェア鶏文鉢(とりもんはち)》 イギリス 18世紀後半 日本民藝館
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旅のきっかけになった木喰上人が彫った仏像。木喰五行(もくじきごぎょう) 《地蔵菩薩像》 1801年 日本民藝館
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イギリスで買い付けて販売した、ウィンザーチェア。《ボウバック・アームチェア スプラットタイプ》 イギリス 19世紀 日本民藝館
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民家の炉端に不可欠な自在掛。暮らしの道具を美的に捉えた道具のひとつ。《自在掛(じざいかけ) 大黒》 北陸地方 江戸時代 19世紀 日本民藝館
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集めた器などをスケッチしたり、建物や製品の設計図を描き、大津絵などの表具をしつらえるなど、さまざまなメディアを通して、美的感覚を伝えた、柳のデザインや編集手法も興味深いところ。

民藝の100年
民藝運動の機関誌として雑誌『工藝』を創刊。装幀や小間絵は、芹沢銈介や河井寬次郎などが手がけた。雑誌『工藝』第 1 号-第 3 号 1931 年(型染・装幀 芹沢銈介) 写真提供:日本民藝館
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民藝の器を現代の生活に合うようにリニューアル。《 緑黒釉掛分(りゅうこくゆうかけわけ)皿》 (デザイン指導:吉田璋也) 牛ノ戸 (鳥取県) 1930年代 日本民藝館
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農家の女性の副業として生産されたネクタイは、「たくみ工藝店」の人気商品に。《ににぐりネクタイ》 (デザイン指導:吉田璋也) 向国安処女会ほか (鳥取県) 1931年 (デザイン) 鳥取民藝美術館 撮影:白岡晃
民藝の100年
展示風景。左側のパネルは、ホームスパンを着る柳宗悦。 日本民藝館にて 1948年2月 写真提供:日本民藝館
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戦時中は日本各地の手仕事の保存と育成、産業化を目指し、日本文化を表象する役割を担った民藝運動。戦後はモダン・デザインに注目。日本で「フィンランド・デンマーク展」を開催するほか、ライフスタイルの変化に合わせて、衣食住をトータルに提案する活動まで広がっていきました。

民藝の100年
東北農村の民藝品。 《藁沓(わらぐつ)》 山形県 1940 年頃 日本民藝館
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舟に溜まった水をくみ出す道具。『月刊民藝』創刊号の表紙にも。《垢取り(あかとり)》 糸満 (沖縄県) 1939年頃 日本民藝館
民藝の100年
《木綿切伏(きりぶせ)衣裳》北海道アイヌ 19世紀 日本民藝館 前期展示:2021年10月26日~12月19日
民藝の100年
展示風景。柳宗悦が芹沢銈介に制作を依頼した、《日本民藝地図(現在之日本民藝)》(1941年 日本民藝館)は圧巻。
民藝の100年
本展で柳宗悦邸の書斎を再現したコーナー。唯一撮影することが可能。
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民藝運動がいかに今の私たちの生活に深く関わっているかがよく分かる、見応えのある展示です。展示の最後には、特設ショップ内で実際に民藝品を買えて、自分の暮らしに繋がっていくのもおもしろい体験。会期は来年2月まで。ぜひお見逃しなく。

取材・文 赤木真弓

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