引田かおりさんの新刊『「どっちでもいい」をやめてみる』(ポプラ社)が話題です。惹かれるのは、潔よく、示唆に富んだタイトル。長らく家族を優先して暮らし、自己肯定感に乏しかったという引田さんが、「NO」という練習を重ね、自分自身の「好き」を優先した先にみつけた気持ちよさについて、紹介してまいります。シリーズの最後には引田かおりさんのインタビューも。
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1)愛犬の死を乗り越えて。「すべての不幸の源は、執着なのかも?」
2)「自分の宣伝を声高にしない人ほど、すごい仕事をしてきた達人かも?」
からの続きです。
「自分のことはたいていあとまわしだった」という、家族第一主義の30代だったという引田かおりさん。
自己肯定感を高め、幸せになるためには、「自分が自分を大切にしないと」と気づき、まずやろうと思ったことは「NO」という練習。
「″どっちでもいい″と選択を自分以外の人にゆだねたままでは、自分の人生を生きられない」と思ったのだと振り返ります。
「世の中は誰かのおすすめ商品であふれていますが、それらはあくまで参考に。ものを選ぶときは自分の感性や暮らしにしっくりくるかどうか」。「なんでもいい」「とりあえず」などとものを選ぶことはせず、ひとつひとつのものに責任をもって選びます。毎日の物選びも、気持ちよく生きるための練習です。
人生は「選ぶこと」でできている
右へ行くのか、左へ進むのか。立ち止まるべきか、まわり道したほうがいいのか。冒険家の選択は生死に関わる一大事です。私たちの日常の暮らしでは、そこまでじゃないと思っていませんか? いえいえ、気がつかないだけで実は、九死に一生を得ているかもしれないのです。寝坊してその日はいつもと違う電車に乗ったとか、飲み会の誘いをめずらしく断ったとか、ラッキーとアンラッキーは表裏一体、誰でもこんなエピソードを持っていて、よく耳にする話です。私たちが意識して選ぶものもありますが、無意識や見えない力が働いていると思わずにはいられません。
人生で起きることを、人や世の中のせいばかりにしていると、いつまでたっても不満ばかり。自分の人生を生きているとは言えません。自分でそれを選んだ責任を持つ生き方のほうが、ずっと潔くて気持ちがいいと思います。私自身、そうなるまでには、たくさん練習しました。
改めて、私はいつもどんな基準で選んでいるのだろうと考えてみました。今日のおかずの材料を買いに行ったスーパーで優先しているのは、「直感」でしょうか。そこに目利きの担当者がいれば、今日食べたいアボカドを選んでもらうことも。服や靴、雑貨なんかもピンときて、何だかワクワクしたら買いますね。失敗を恐れないほうかもしれません。
大きな決断はどうでしょう。土地を買う、家を買う、仕事を変わるなどなど。そういうときに大事にしているのは、「自分だけがしあわせになればいい」と思わないことです。みんながしあわせになれるだろうか、みんなでしあわせになれるかしらということを大切にしています。
私はせっかちなので、「やりたい」と思ったらすぐに取り掛かって、早く結果を出したいタイプ。じわじわ温めていたら、ふくらんだ情熱の風船がしぼんでしまいます。あとまわしにせず、すぐ行動に移すことは、「機を逃さない」ことでもあると思っています。欲しいものは、ぐっと手を伸ばして摑まなければ、さっと逃げて、永遠に失ってしまうのです。もちろんできる限り、情報を集める手間は惜しみません。静かに耳をすましていると、必要なことは耳に入るから不思議です。
ギャラリーは、作家さんと時間をかけて作り上げる空間です。すでにものがあふれている世の中で、それでも必要とされる作品なのか、人をしあわせにする力があるのか、自分に問いかけながら見極めていくしかありません。人気があるから、売れるからと何でもしていたら、収入は増えても、責任を取れなくなることを分かっていますから、私はやりません。
カトリックの学校では「宗教の時間」があり、週に一度聖書を学びました。印象に残っているのは「ひと 粒の麦」の話です。ひと粒の麦は地に落ちてこそ、命がつながり、実りとなるという内容だったと思います。
自分の選択が世のため人のためとなったら、これほど嬉しいことはありません。
食べるものを選ぶ。住む場所もきちんと選ぶ。関わる人間関係や人生をともにする伴侶。しっかり目を開き、損得だけではなく、たっぷりの愛で、よくよく考えて選択することが大切だと思っています。
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「どっちでもいい」をやめてみる
「どっちでもいい」をやめて、人まかせにせず、自分の「好き」を優先させると、人生を気持ちよく歩けます。本書では、正直な気持ちを表現できるようになれるヒントを、文章と写真で紹介。引田かおりさんが選び抜いた器や洋服、長年集めたかご、ガラス、暮らしの工夫も必見です。