おしゃれミューズの小林麻美さんの人気連載。今回のテーマは海。シーズンの終わったひと気のない海へ。デイタイムよりもサンセットのビーチ、真夏よりもオフシーズンの海が似合う小林さんが、非日常を楽しんだ1日でした。
寄せては返す波を見ていると
水平線に沈む夕陽を見ていると
色んな事を思い出す
小さかった私
父に連れられて来た海で 土用波にさらわれて
それから水が怖くて 泳げなくなった
ラグナビーチ 20代の私
サーフ&サンドというホテルの
ベランダ一面に沈む夕陽を毎日見ていた!
私の人生観が 大きく大きく変わった海
アイドル歌手だった時
大磯の海岸で唄った あの暑い夏の匂い
家族で行ったハワイ
幸せ色にきらきら光っていた
ワイキキの海の色
写真を撮りに行った
香港のコーズウェイベイの灰色の波
真っ赤な薔薇
ラメール─海は女 なんだ
フランス語は全く解らないけど
女性名詞 男性名詞
その分け方は 何だかわかる気がする
太陽は男性で月は女性
ラ メール 海は女
ル シェール 空は男
そんな事を想いながら 海を見ていた
若かったあの頃
夜どおし遊んで
空が夜から朝に少しずつ変わり始める頃
誰かが 海行こう!
で 誰かの車に皆で乗って 湘南を目指して
FENのボリュームをフルにして海岸通りをぶっ飛ばした
何でもできると思ってた
何もこわくなかった
パシフィックホテル茅ヶ崎
たしか 加山雄三さんとお父様のホテルで
私達 学生には憧れの場所だった
加山雄三さんの若大将シリーズは
大好きで全部観に行った
加山さんの レコードも買った!
海 船 夜空
今聞いても 胸がきゅんとする位
素敵な曲ばかり
海は やっぱり母なる海 なんだ
優しく抱かれると
少しだけ 強くなれた気がする
小林麻美/こばやしあさみ
高1から雑誌やCMのモデルを始め、高3終盤に「小林麻美」で歌手デビュー。憧れのファッションリーダーとして活躍の後、結婚を機に引退。昨年、25年ぶりに本誌に登場し話題に。以来、連載が大人気。
『ku:nel』2018年11月号掲載
文・写真 小林麻美/編集 黒澤弥生