名作はここから生まれる。漫画家・ヤマザキマリさんの感性を刺激する創作部屋とは?【後編】

作品が生み出されるクリエーターの住まいとは?今回は漫画『テルマエ・ロマエ』で知られるヤマザキマリさんの創作の場であり、暮らしのベースでもある東京のご自宅に伺いました。

PROFILE

ヤマザキマリ/やまざきまり

イタリアの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。『テルマエ・ロマエ』で漫画賞を多数受賞。『人類三千年の幸福論』(集英社)など著書多数。今秋、本誌連載が書籍化。

利便性とほどよい癒しの両方が大事

デンマーク製ソファは飼い猫の特等席。「フレーム部分は情熱を込めて爪を研いでいるし、もう猫に捧げます」

都会にありながら、開放感のあるヤマザキ邸。大きな窓を開けると、眼下にはこんもりと茂った木々が、頭上には広々とした青空が見えます。

「この部屋の決め手はこの景色。視界に広い空と緑があるというだけで落ち着きます。なんだかいい『気』を感じますよね。『気』なんて言うと、合理的なイタリア人の夫からは『何を言ってるの?』と笑われるのですが」

自然が大事というヤマザキさんですが、「自然だけ」の田舎暮らしはできないと断言します。

「公園のそばとか、邸宅の庭が見えるとか、アーバンだけど緑もあるというのがポイント。思い立ってさっとご飯を食べに行けたり、仲間と集まりやすかったり、空港へのアクセスがよいのも重要事項。そうすると山の中というわけにはいきません。利便性とほどよい癒しと、その両方が大事なんです」

ギリシャの壺や、胸像、トロフィー、昆虫の標本など、本棚にはヤマザキさんのお気に入りが飾られている。

自分が心地よいと感じる状態にしておく

比較文学の職に就く夫に同行して、世界のあちこちで暮らしてきたヤマザキさん。古いイタリア・パドヴァのお屋敷、50階という超高層のシカゴの家、きらびやかな家具を備え付けたシリアの家など。動くたび新しい暮らしに順応。さまざまなことを見聞し、それが創作の血となり肉となってきました。

「一番、住み心地が良かったのはリスボンの家。床が斜めに傾いているような、古い集合住宅でしたけど好きだったな。そこに人が暮らしていた気配をすごく感じて、いろいろと想像力がかき立てられる場所でした。その家は、今も売らずに残しています。『終の棲家』ではないけれど、いつか戻りたい場所として大切にしています」

爽快な景色のバルコニーでリフレッシュ。近くにはお寺があり、「それもよい『気』を作っているはず」という。

世界を股にかけて引っ越しを繰り返し、今の家こそ一番「自分らしい」というヤマザキさん。創作活動と住まいの関係について尋ねると意外な答えが返ってきました。

「家の中で『具体的な何かからインスピレーションをもらう』ということは無いのです。ただ、自分が心地よいと感じる空間や状態にしておきたい。片付いていないと仕事のモチベーションが下がるので、掃除はマメにしてます。物質による圧が無い状態にしておきたいんです」

間接照明を使った柔らかな明るさや、好きで集めた個性豊かなアート、そして窓の外に見える空や木々など……。創作時の高揚感や集中力を「遮ってこない」「邪魔しない」環境こそ、住まいに求めるものなのだと話します。

職人の手仕事が美しいテーブルと椅子は『ポラダ』。「イタリアのコモ湖のそばに工房があり憧れていました」

関連記事はこちら

『クウネル』9月号掲載 写真/加藤新作、取材・文/鈴木麻子、編集/河田実紀

SHARE

『クウネル』No.122掲載

やっぱり、家が好き!

  • 発売日 : 2023年7月20日
  • 価格 : 980円 (税込)

IDメンバー募集中

登録していただくと、登録者のみに届くメールマガジン、メンバーだけが応募できるプレゼントなどスペシャルな特典があります。
奮ってご登録ください。

IDメンバー登録 (無料)