好きがこうじて、 新しいこと始めました。好奇心のアンテナを磨いて、新しいことにチャレンジし始めた素敵な人のストーリーをご紹介
宮本典子/みやもとのりこ
臨床心理士、公認心理師
高齢者の心理が専門分野。日本ではまだなじみが薄いカウンセリングをもっとカジュアルに利用してほしいという思いから、さまざまな場所で幅広い世代に心理臨床を試みている。
「手仕事に対する憧憬がずっとありました。中でも編み物は、少女時代から時折していましたが、難しいところになると放り出して、母に渡して仕上げてもらっていました」と語る、 宮本典子さん。
時は流れ、いつまでも母親を頼るわけにはいかないと、思い切って近所の編み物教室に通い始めることに。先生の厚意で、好きな時間に行けるのも忙しい宮本さんには続けやすく、大きなメリットでした。
「孫が生まれたことも、編み物に向き合うきっかけのひとつに。小さいものはすぐ編めるし、可愛いから、編みたい気持ちが膨らみます。私にとって編み物は、作品を作り出すことに楽しみを見出すというより、編むという行為そのものに魅力を感じているのだと思 います。その結果、セーターや靴下などの作品もできるから一層うれしい」
宮本さんは、かつてイギリスでマイ ンドフルネスを学んだ経験があります。編み物を始めて、その効果があるので はないか、と思い調べたところ予感は的中。『ザ・マインドフルネス・イン・ ニッティング』という本が見つかりま した。
「私自身も迷いごとや落ち着かない気持ちを抱えている時に、編み物がしたくなります。最初はシンプルなメリヤス編みなどが良いと思っていましたが、 複雑な編み図は間違えないように集中して編むことで無心になり、心の中が静寂になります。また、こんがらがった糸をほどく作業は根気がいりますが、ちょっとカウンセリングに似ているな、と思う瞬間があります」
4年ほど前からフリーランスのカウンセラーとして活動。1日中移動しながら仕事をする日は、エコバッグに毛糸と編み棒を入れて出かけ、〈モバイルニッティング〉を楽しみます。
\プレゼントとして贈りました/
「軽くてそれほどかさばらないニット道具は、携帯にも便利。いつでもどこでも編み物ができ、仕事の合間の気分転換になります」
編み物を始めたら、今まで外出先のところどころで生まれた隙間時間が、一気に充実した時間へと変わりました。
「妹がデンマークに住んでいるのですが、冬の長い国では編み物や手芸、手仕事が盛ん。街の中に小さくて可愛らしい毛糸屋さんが多く、お店の真ん中にはテーブルがあり、近所のおばあちゃんたちが編み物をしているんです。 いつか長期滞在して、そのテーブルに加わって編み物をするのが夢です」
『クウネル』2022年7月号掲載
写真/森泉 匡、取材・文/高橋敬恵子、齋藤優子、船山直子