漫画家・松本英子さん「ひとり温泉旅」のススメ。「お湯が旅の第一目標。私はただ湯にまどろみたい」

「自由で気が楽」「一人だからこそ、旅先で面白い人や出来事に出合うことができる」。ひとり旅好きのみなさんが話してくれたエピソードにはそんなお楽しみがいっぱい。自身で撮影した写真を見せてもらいながら、そんなひとり旅の誘いに耳を傾けてみませんか。
きままに、自由に、温泉の恵みを心ゆくまで。
愛する温泉や旅をめぐるコミックエッセイが話題の松本英子さん。初めて温泉ひとり旅をしたのは21歳の春のこと。いろいろとうまくいかないことが重なって、暗い気持ちが続いていたころ、「何かしてみよう、ならば初めてのことでも」と思い立って敢行した旅でした。
「長野の田沢温泉へ行きました。硫黄のいい匂いがほんのりとしているぬる湯に揺られていたら、こんなどうしようもない私にも田沢の湯は分け隔てなく、やさしいんだなあ、と感じました。つらい気持ちはそのままだったけれど、いい旅になりました」

福岡県みやま市の長田鉱泉場では炭酸湧水を。
そこから松本さんのひとり温泉行脚は始まって、『49歳、秘湯ひとり旅』などの作品を描きあげるほどの愛好者に。食事にはそれほどこだわりはなく、宿の大浴場が好みかどうか、部屋にお手洗いがあるかどうかが、宿選びの基準だそう。宿には可能な限り早くチェックインして、お風呂へ直行。

足湯を楽しんだあとに使うてぬぐいと、軽くて割れにくい飲泉用マグカップが必携品。
「ともかくお湯が旅の第一目標。私はただ湯にまどろみたい。ひたすらのんびりと湯につかっていたいのです。ひとりの自由さ、気楽さがいいです」温泉街の共同浴場ももちろん大好き。たまに貸し切り状態になったりすると、歓喜雀躍の松本さんです。

杖立温泉でいただいた手作りゆずみそ。忘れられない思い出です。
「温泉街を歩くことも大好きで、散策は必ずします。神社仏閣、石仏や山、川に『来ましたよ、来られてうれしいです』と挨拶するんです」
写真の素朴なゆずみそは熊本県の杖立温泉で入った竹工芸の工房で、お店の方にもらったもの。「母のお土産に買った竹炭せっけんの話から、手作りのゆずみそを母と私にプレゼントしてくださって」。そんな温泉地の人たちの温かさに触れられるのも、ひとり旅ならではのごほうびです。
PROFILE

松本英子/まつもと・えいこ
漫画家 56歳
『49歳、秘湯ひとり旅』(朝日新聞出版)、『旅する温泉漫画 かけ湯くん』(河出書房新社)の他、新刊に『かけ湯くん ありがとう温泉編』(河出文庫)、『初老の娘と老母と老描 再同居物語2』(朝日新聞出版)。
『クウネル』2025年9月号掲載 取材・文/船山直子
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