コラムニストの中野 翠さんがおすすめ映画を語る本連載。
今回は、頼もしい女が主役の映画を二本ご紹介。メキシコで、ロシアで、女性たちは人生に翻弄され否応なく、自分自身に向き合っていく。
中野翠/なかのみどり
中野さんが週刊誌で連載する人気コラムが昨年末も一冊にまとまりました。タイトルは『いつか見た青空は』。 自筆イラストと自作俳句付き、必読コラム集です。
二作の頼もしいヒロイン、それぞれの人生。
まず、メキシコの小さな町に暮らすシングルマザーのサスペンス映画(と言ってもいいだろう)、『母の聖戦』。
四十代とおぼしきヒロイン(その名はシエロ)は、ある日突然、だいじな 一人娘を犯罪組織に誘拐される。
決して豊かな家庭ではないのに、犯人たちは身代金を吊り上げてくる。その地では「誘拐ビジネス」が平然と行われているのだ。
警察は頼りにならない。ジレったい。ついに、シエロは自力で娘を取り戻すことを決意。知恵と勇気を振り絞って組織と闘うのだった……。
「女は弱し、されど母は強し」といったところか。何と言っても母親役を演じるアルセリア・ラミレスの面構えがいい。
目にチカラあり。太眉の、いわゆる「男顔」。意志の強さを感じさせる。ストレートな「母性愛」の話ゆえ、いささか「重すぎるかも……」
母の聖戦
監督/テオドラ・アナ・ミハイ
ヒュ ーマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか、全国順次公開中
https://www.hark3.com/haha/
さて、もう一作。2月10日公開予定という印象も少々。 なので、ちょっと先の映画になるけれ ど、『コンパートメント6』という短めの映画をオススメしたい。一人旅経験のある人には特に。
時代背景は1990年代。モスクワで留学中のフィンランド人(女子学生) ラウラは、世界最北端駅ムルマンスクにあるペトログリフ(岩面彫刻)を見るため、列車に乗っている。
寝台列車の6号室だ。そこでロシア人の炭鉱労働者のリョーハという男と知り合う。
“インテリ”のラウラと出稼ぎ労働者リョーハ。話が合うはずがないと距離を置いていたのだが……。
長い長い列車旅。ほとんど列車内でのできごとに限定されてしまうわけだが、案外、密室劇の息苦しさは少ない。
どこまでも、単調に、ひた走る列車の中で、ラウラは自然と自分の過去を振り返る。一人旅をした人なら、わかるだろう。
おのずから、自分の過去、そして現在、さらに未来を、ゆるやかに考えさせられるのだ。いささかの淋しさと、解放感。はい、久しぶりに一人旅をしたくなりました。やっぱり北への旅かな。
コンパートメント No.6
監督/ユホ・クオスマネン 出演/セイデ ィ・ハーラほか
2月10日(金)〜、新宿シネマカリテほか、全国順次公開
©2021-Sami_Kuokkanen, AAMU FILM COMPANY
https://comp6film.com/
※上映時期などは変更の可能性があります。各映画館へお問い合わせください。
文・イラスト/中野 翠 再編集/久保田千晴