毎朝食べる人も多い食パン。各家庭に「とっておき」の食べ方があるのではないでしょうか?作家・井上荒野さんが教えてくださったのは、祖父から受け継いだ思い出の一皿です。
井上荒野さんが作ってくれたのは、ベーコンエッグをトーストにのっけたレシピ。ずっと前に亡くなった母方の祖父の思い出の一皿です。
今回は焼きトマトも添えてくれましたが、半熟に焼いた目玉焼きをトーストにのっけたシンプルなもの。ナイフとフォークで、黄身を割って、ベーコンやパンにからめながら食べます。明治生まれの人としては、ずいぶんおしゃれな食べ方です。
「祖父は九州の佐世保の人で、カステラ屋をやっていました。佐世保という土地柄なのか、ちょっとハイカラな人だったようです。たまに佐世保に行ったときに、これを祖父が食べていたのを私が見たかどうかの記憶はあいまいです。でも、小さいころに、こういう食べ方を初めて知って、特別感がありました」
このトーストを食べるたびに、「これは、おじいちゃんの食べ方よ」と言った今は亡き母親も、祖父を懐かしんでいたのでは、と井上さん。
薄い食パンでソーセージを巻いて焼いた「くるくる巻き」、厚切りにしたパンに切れ目を入れて、前日のカレーの残りを詰めて焼いたカレーパン。料理上手だった母が子どもたちに作ってくれたおいしいパンの記憶と共に、祖父の味も井上さんに引き継がれていったのです。
●ベーコンエッグトーストの作り方
1)フライパンにオイルを引き、ベーコンと、へたをとって横半分に切ったトマトを両面とも焼く。
2)取り出した後、同じフライパンで目玉焼きを焼いて、塩・こしょうし、トーストにのせる。
いのうえ・あれの
作家。父親で作家の故・井上光晴と母をテーマに書いた『あちらにいる鬼』(朝日新聞
出版)が話題に。11月にはいじめをテーマにした新刊『あたしたち、海へ』(新潮社)を刊行予定。
『ku:nel』2019年11月号掲載
写真 三東サイ/取材・文 船山直子