服を1/3量に減らしたら朝の支度が劇的にラクになりました【60代山岡まさえさんのダウンサイジング記・後編】
シンプルでミニマムな暮らしが注目されています。年の区切りのこのタイミングで、暮らしの「ダウンサイジング」を考えてみませんか?お気に入りだけが並んだクローゼット、必要なものをさっと取り出せる棚……。ものに縛られず、過去に捉われず、軽やかに生きる二人の女性に話を伺いました。
ひとり目は、60代のシンプルな暮らしとカジュアルファッションをInstagramで発信し、人気を集めている山岡まさえさんのストーリー。主婦から45歳で起業し、現在は「グルーデコ®」「グルー継ぎ®」というハンドワークの講師を育成する一般社団法人日本グルーデコ協会の代表理事を務めています。
「終活」を完璧に整えて旅立った義母をお手本に
「いつかは使うかも。高かったし。まだ使えるしもったいない。そういう思いで手放せずにいるものも、私以外の誰かにとっては無駄なものでしかなかったり、負担になったりもする。実際に家族に『ほしい?』って聞くと、大体が『いらない』ってハネられるんですよね。だから、『いつか』とあたためて持ち続けていても、いま現在使っていないのなら潔く手放そうと」
そうして、持ち物は厳選され、手放され、ここ数年でかなり身軽になりました。その最たる場所はクローゼット。主婦から起業して数年は、「調子に乗って」服をたくさん買っていたそう。
「人前で話す機会も多く、人前に出る=スーツと思い込んで、スーツばっかり買ったり……。でも結局そういう服は、普段は全く着ないし、自分らしくもない」
ガラス棚の裏にあるウォークインクローゼット。ハンガーは60本のみと決めている。「ひとつ増えたら、ひとつ減らす、を徹底しています」
自分が本当にしっくりくる服、「いい感じに見える服」のみを残すことにしました。去年の夏に服は3分の1までに減らし、現在はさらに減量中。冬のコートから夏のインナー、デニムなど厳選を重ね、アイテム数をしぼりました。
ガラスの食器棚にはシーズンのトップスを畳んで収納。「引き出しにしまい込むと死蔵してしまいますが、これだとどこに何があるか一目瞭然」
「たくさん持っていたときは、毎朝『今日着ていく服がない!』ってバタバタしていたのに、服を減らしたらすごくラクになりました。毎朝『今日はどんなコーディネートにしようかな?』って、服を選ぶのが楽しいんです」。「とりあえず」のものが無く、すべてが一軍だから、組み合わせも自由自在。それらをその日の天気やTPOに組み合わせるだけで、5分以内で完結します。
「最初はアイテムの写真を撮ってアプリでワードローブの管理をしていました。でも、量が減ったいまは、全アイテムが把握できているので、アプリを使わずに頭の中でコーディネートできています」
自室をいつでも貸せるよう 持ち物は最低限に。
コンパクトになった我が家で、一番のお気に入りは自分の部屋。リビング以外に2つある部屋のそれぞれを、夫と自分の部屋にしています。家具はマットレスとミニデスクと、ガラス戸の棚だけ。ここをミニマムにしたのにも理由があります
自室を「ゲストルーム化」できるようにしたという新発想。なるべくものは置かず、息子家族が泊まりに来たときは彼らに自由に使ってもらう。
「ダウンサイジングして、夫婦ふたりだけの生活にはぴったりなのですが、困ったのは息子家族が泊まりにくるとき。息子ひとりだけのときはよかったのですが、結婚して子どももできて家族となったときに『さあ、どうしよう』と……」
そして思いついたのが、自分の部屋を「明け渡す」こと。家具は最低限にし、何もないスペースを確保しておきます。息子ファミリーが来たら、部屋を使ってもらい、自分はリビングに布団を敷きます。最近、ベッドフレームも手放したのですが、「もっと早くなくせばよかった」と思うほど、快適なのだとか。
そんなふうにダウンサイジングはどんどんと進み、山岡さんの暮らしはますます快適に。
「ものが少なく、空気がすっと通るような空間で過ごすのは、とても気持ちがいいものです。すっきりとした空間だからこそ、思考も感情も自然と整ってくる、そんな感覚が確実にあります」
身軽になったら、人生に 必要なものが見えるように。
ダウンサイジングは単なる物理的な増減ではなくて、思考のクリア化にも影響しているのだとか。
「必要か不要か。ひとつひとつのものと、そんな思いで向き合っているうちに、これからの人生に本当に必要なことが、くっきりと見えるようになりました。空間だけでなく、思考もすっきりと整っていったように思います」
『ルイ・ヴィトン』の船旅用トランク。「最終的には、自分のすべての荷物がこのトランクに収まるくらいまで、持ち物を厳選したいと思います」
リビングにある『ルイ・ヴィトン』の船旅用トランク。今は客用の布団などを収納しています。いつの日か、夫か山岡さんか、どちらか一人になったとき、食器、衣類などすべての持ち物をここに収まるほどにして、もっと生活をコンパクトにしたいと考えているのだとか。お手本は、本当に少ないものを残して旅立った義理の母。「人は最期、何を残し、何を手放して旅立つのか」。これからの人生のテーマです。
「なんだかいまは、生き方もラクになったんです。人付き合いでも、無理をしなくなったし、いろいろな決断もブレなく早くなりました」
ダウンサイジング年表
山岡まさえさんの「ダウンサイジング」のこれまで
2007 年/42歳頃
大阪府・北摂エリアに150 平米・4LDKの戸建を新築。両親の介護や見送り、子どもたちの受験など、家族のために全力で動いていた時期。
2010 年/45歳
次男が中1のときの個人面談で「子離れをしないと、お子さんがダメになりますよ」と言われたことを機に、主婦から起業。趣味でやっていたハンドメイドの教室を立ち上げ。
2013 年/48歳頃
大阪市船場エリアのマンション(130平米・3LDK)へ。息子たちが大学生となり、家族全体が「それぞれの人生を歩みはじめた」タイミング。仕事も一番忙しく、家と会社が近いことを最優先に。
2014 年/49歳
義母が亡くなる。終活をしっかりしていたため、遺された家族の負担がほとんどなく、そのときに自らもダウンサイジングの必要性を感じる。
2019 年/54歳
息子ふたりの独立を機に85平米の2LDKのマンションに引っ越し。マイナス45㎡のダウンサイジング。それに伴い、持ち物を「本当に必要なもの」だけに厳選。
2024 年/59歳
クローゼットの整理をして、洋服を3分の1に減らす。下着やTシャツなどすべて数えて100 着に。
2025 年/60歳
さらなるダウンサイジングに向けて、リビングの棚を手放す予定。
PROFILE
山岡まさえ/やまおかまさえ
一般社団法人日本グルーデコ協会代表理事 60歳
「グルーデコ®」「グルー継ぎ®」というハンドワークの講師を育成する一般社団法人日本グルーデコ協会代表理事。日々コーディネートや暮らしの気づきを紹介するインスタグラムも人気。Instagram:@yamaokamasae
写真 山口健一郎 取材・文 鈴木麻子 『クウネル』2025年11月号掲載