【石川三千花さん×川邉サチコさん】映画はファッションのお手本!ふたりのセンスを刺激した映画とは【前編】

登場人物のキャラクターづくりに重要な衣装や着こなしも、映画の注目ポイント!名作から新作まで、石川三千花さん、川邉サチコさんが推薦するファッションも見どころの映画とは?石川三千花さんのイラストも交えて前編をご紹介します。

PROFILE

川邉サチコ/かわべさちこ

トータルビューティークリエーター。トップメゾンのショーや広告などのヘア&メイクアーティストとして、第一線で活躍し、現在はファッションや美のアドバイスを行う「KAWABE LAB」主宰。

石川三千花/いしかわみちか

イラストレーター・エッセイスト。映画やファッションについて独自の視点で切り取ったイラストやエッセイが人気。今、蓼科の山荘をフルリノベ中で、「久しぶりにインテリアに燃えている」そう。

ふたりのセンスを刺激した映画

『ココ・アヴァン・シャネル』

孤児院で育った少女が世界のシャネルになるまでを描いた伝記映画。不世出のデザイナーの若き日をオドレィ・トトゥが演じた。既成概念を覆して時代に立ち向かう反骨精神が着こなしに投影されている。2009年公開。

川邉サチコさん(以下、川邉)

イラストをいつも楽しく拝見していて、石川さんとは年代や趣味は違うけれど映画や役者を見るツボが同じ!と気になっていたので、お会いできてうれしいです。最近は映画をじっくり観る時間がなくて。おしゃれ心を刺激されるような映画を教えていただけたらと思っています。

石川三千花さん(以下、石川)

ありがとうございます。ちなみにサチコさんがいちばんよく映画を観ていらしたのは?

川邉

学生の頃だから50年代からヌーヴェルヴァーグのあたりかしら。あの頃のフランス映画って、とにかくカッコよかった。女優だとシモーヌ・シニョレやブリジッド・バルドー。私がすごく好きだったのは『死刑台のエレベーター』のジャンヌ・モロー。別にきれいなわけではないし、ファッションもどうということはないんだけれど、彼女のパーソナリティが強く出ているところが好きでした。

石川

雰囲気ありますよね。

川邉

あとね、ジャン=ポール・ベルモンドが大好きだったの。

石川

私も!

川邉

少年のような雰囲気があって、どこか色っぽいのよね。着ているものもカッコいい。特にトレンチコートが印象に残っています。

石川

スーツの上にトレンチコートをぐしゃっと着て雨に濡れても全然平気、みたいな無造作感がカッコよかった。

川邉

コートって着方によっておしゃれかどうか、すごくわかる。

石川

そもそも「フランス映画はおしゃれ」って、みんな思っているけれど、着ているものは意外とシンプルです。

川邉

何でもないものをその人らしく着ているところがおしゃれなのよね。

石川

たとえばアンナ・カリーナはいつもクルーネックのカーディガンを着ていて、それがすごくいい。アクセサリーも何も着けずに女性のネックラインにクルーネックがあるだけ。あそこまでカーディガンをカッコよく着こなせるというのは、今見ても新鮮です。

川邉

それからボーダーも、フランス映画っぽいアイテムね。

石川

私も好きだからよく観察するんですけれど、ボーダーってひと口にいってもピンからキリまである。やっぱり上質のボーダーは違います。「ボーダー着るとフレンチカジュアルっぽくておしゃれ」みたいに思いがちだけれど、みんなが着るものだからこそ違うように見せるのがとても難しい。

川邉

まず素材がよくないといけないわね。

石川

『ココ・アヴァン・シャネル』では、オドレィ・トトゥがボーダーのTシャツにツイードのジャケットを重ねています。北フランスの漁師が着ていたマリンTシャツと、男物の素材だったツイードをガブリエルが初めて女性のファッションに取り入れた。彼女の革新性が着こなしに表現されていてカッコいいなと思います。

川邉

服で女性を開放していくシャネルの生き方がね。

石川

男性のボーダーでおもしろいと思ったのは『ウォリスとエドワード』です。エドワードが王室を離れて南仏のリゾートに行くとき、ボーダーに麻のパンツをはいていて。これがフランス人のボーダーとはまったく違う着方で、上流階級のカジュアルというか。英国っぽいボーダーの着こなしが新鮮です。

『いぬ』

ジャン゠ピエール・メルヴィルによるフィルム・ノワールの傑作。ノワール系映画全盛の時代、「タフで硬派な男」を象徴したトレンチコート。ジャン゠ポール・ベルモンドは「トレンチにソフト帽で見るからに怪しいんだけど、それがカッコよかった」(石川さん)。1963年公開。

これは真似したい!心くすぐられるおしゃれとの出会い

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

90年代、ニューヨーク。出版エージェンシーで編集アシスタントとして働き始めた女性の成長を描く物語。上司であるベテランエージェントを演じるシガニー・ウィーバーの「デキる女」っぷりはさすがの貫禄。2022年公開。

石川

これまででおしゃれに刺激を受けたといえば、私は何といっても『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイですね。細長いシルエットにペタンコ靴、ボブヘアにデコ出し被りのベレー帽。いちばん影響を受けた映画です。

川邉

ファッションも、映画としてのおもしろさもあって、確かに刺激的でした。フェイ・ダナウェイには実際に会ったことがあるんですけど、彼女、とても大柄なのね。小柄だったら、あの雰囲気は出せなかったんじゃないかしら。

石川

そうかもしれませんね。

川邉

大柄なほうが、車を運転するときなんかの動きもカッコいい。

石川

服を着たときのバランスも。

川邉

私は仕事柄ヘア&メイクはもちろん、全身から醸し出される雰囲気がとても気になるんです。後ろ姿が映るとヘアスタイルはどうなっているのかしらなんて、ついそういう見方をしてしまうので、実は映画を純粋に楽しめていないようなところもあります。

石川

なるほど。

川邉

でも、さすが細かいディテールまで見ていらっしゃるわね。

石川

わりと最近だと、今日も真似しているんですが、『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』のシガニー・ウィーバーがよかったです。上等なシャツとグレンチェックのパンツに大ぶりのパールネックレス、そこにマスタードイエローのセーターをスカーフのように巻く。「このファッションを真似したい」っていう映画が最近はなかなかないんですけど、この着方には「おっ!」と思いました。今までだったら普通に前で結ぶだけ。ゴルフ帰りのおじさんみたいにね。でも、こうしてスカーフみたいに巻く、たったこれだけなのに、ものすごくシャレて効いている。

川邉

ああ、そういうコーディネートの妙からインスパイアされるのね。このセーターのあしらいは女優のアイデアだったりするのかしら。いつもやっているんじゃないっていうくらい、彼女流に着こなしている感じがしますが。

石川

これは、アン・ロスというアカデミー賞を2回とっている有名な衣装デザイナーが手がけているんです。彼女、何と今年92歳で現役。シガニー・ウィーバーの役は高圧的な仕事のできる上司なんだけれど、こういう女だったらちょっと人と違うことをするだろうなというところまで計算して、セーターで少しだけハズすという上級なコーディネートでした。アン・ロス、さすが!と唸りましたね。

川邉

そうなのね。いかにも「着せられている感」があるとつまらないじゃない。彼女(シガニー・ウィーバー)は自分のものにしているから、おもしろいわね。

石川

特にファッションがフィーチャーされている映画の役者って、すごく難しいと思うんです。本人もおしゃれが好きかどうか、そういうところが透けて見えてしまう。

※後編も読む

『クウネル』1月号掲載 写真/目黒智子、取材・文/河合映江、イラスト/石川三千花、編集/黒澤弥生

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『クウネル』No.124掲載

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