【目利きが選ぶフランス映画】シャルロット・ゲンズブールがジェーン・バーキンを追ったドキュメンタリーなど

夏の終わりのアンニュイな時期。夜更かしして、フランス映画を観ませんか?フランス映画には、恋、おしゃれ、アート、濃密な人間関係…人生で大事なことが全部が詰まっている。目利き10人におすすめのフランス映画について聞きました。今回は映画コメンテーターのLiLiCoさんとモデルのはなさんのおすすめです。
娘が母の真実に迫る、痛切なドキュメンタリー。
永遠のおしゃれアイコン、ジェーン・バーキンを、娘で俳優のシャルロット・ゲンズブールが追ったドキュメンタリーを推してくれたのは映画コメンテイターのLiLiCoさん。
「ともかく二人とも本当にかっこいい。映像の表現、ファッション、そしてジェーンの家のインテリアも、アートそのもの。すべてがセンスの塊なんですよね」
東京のコンサートホールの舞台袖で、ジェーンの海辺の別荘で、ニューヨークの高層ビルの屋上で、家族について、愛について、赤裸々に語り合う母と娘。
「私も俳優だからわかるんだけど、ドキュメンタリーとはいえ、カメラが回ると俳優は演技するんです。この映画の二人も、本当の素が映っているのか。なんでもしゃべっているように見えて、なにかがベールに包まれているような感じもしてきます」
そんな映画のナゾに惹かれて、繰り返し観たくなる1本です。

『ジェーンとシャルロット』
昨年、76歳で亡くなった歌手・俳優のジェーン・バーキンを娘シャルロット・ゲンズブールが自らカメラを回して、インタビューし、その真実に迫った初監督作。映画は晩年に東京でコンサートを行ったジェーンの姿から幕を開ける。自らも母との間に葛藤があったLiLiCoさんは「もしシャルロットに会う機会があったら、この映画を通して本当のお母さんに出会えたのかを聞いてみたい」と言う。2021年製作。Photo: aflo
ゴダールの葛藤の日々を若いパートナーの視点で。
「フランス映画は、10代20代にモデルとして一人前になるためのテキストでした。特にジャン゠リュック・ゴダールの世界は絶対的憧れで」 と言うのはモデルでエッセイストのはなさん。60年代後半のゴダール監督の周辺を描く『グッバイ・ゴダール!』をすすめてくれました。
「ゴダールかっこいい、と言っていれば安心だった時代を経て、違う視点で監督の世界観と背景を知り興味深かったです。映画自体の芸術性も高く、パラレルな時代ウォッチもできます」
物語はブルジョワの大学生、アンヌの視点で描かれます。彼女が恋仲となったゴダールは市民革命へ傾倒していき芸術、思想の間に揺れ……。
「アンヌは憧れから心を奪われたものの愛と尊敬の感情がごっちゃになっていたと気付いて、ゴダールの存在は色薄れていくんです」
愛、芸術、思想……etc. 芸術家の生き方に結論は不要と思えてきます。

『グッバイ・ゴダール!』
19歳でゴダール監督の『中国女』に主演し、彼の妻にもなったアンヌ・ヴィアゼムスキーが書いた自伝的小説を映画化。時代の寵児ゴダールと恋に落ちて生活を共にし、クリエイティブなシーンにも泳ぎ出すアンヌ。成長著しい彼女の横で、ゴダールは市民のデモに同調を強め、やがて映画作りと思想を添わせようとする。「モダンでセンスのいい映画です。そしてかわいいし、懐かしい」。ミシェル・アザナヴィシウスが監督・脚本、ゴダール役にルイ・ガレル。2017年製作。photo:aflo
すすめてくれた人

LiLiCo /りりこ
映画コメンテーター。第17回淀川長治賞受賞。苦手だったフランス映画を好きになったのは『メルシィ!人生』というコメディを観たのがきっかけ。「面白いだけでなく、深いメッセージもある作品です」

はな/hana
モデル・エッセイスト。高校時代からモデルを始め、ラジオのナビゲーターから書籍、雑誌、WEBでの執筆まで広く活動。20代で語学習得のためパリに逗留し、アパルトマンに暮らした時期もある。
『クウネル』2024年9月号掲載 取材・文/船山直子、原 千香子