アニメ好きがプレゼン!大人の女性にお薦めしたい「アニメ映画」25選【前編】
時代を超えて愛される日本のアニメ。ダイナミックかつ繊細な表現はアニメだからこそ。マニア3人のおすすめプレゼンで、アニメの世界を掘り下げてみましょう。
PROFILE
アニメジャーナリスト・渡辺由美子さん
1990年代からアニメ業界とアニメファンを追い続けて執筆。11月26日に『アニメ・マンガ女性ファンとビジネスの歴史』をテーマにしたトークセッションを配信。詳細は『国際マンガ・アニメ祭』HPから。
漫画家・妹尾朝子さん
夫の小沢高広(原作)とともに夫婦漫画家ユニット『うめ』として活躍。スティーブ・ジョブズを主人公にした『スティーブズ』など、取材力を駆使した作品にファン多数。妹尾さんは作画担当。近々、漫画アプリ『ピッコマ』で連載開始。
『Newtype』副編集長・鳩岡桃子さん
アニメ情報誌『月刊ニュータイプ』(KADOKAWA)の副編集長。映画館ではもちろん、試写や自宅での鑑賞などでアニメ映画を観る日々。「旅が好きなので、ロードムービーには惹かれます」。
突飛なファンタジーより現実世界の物語が今っぽい
——かつては「アニメは若者や特定のファン向け」という印象でしたが、いま観客層は広がっていますか?
鳩岡さん(以下、敬称略):すごく感じます。実際、映画の興行収入ランキング上位もアニメが増えました。
妹尾さん(以下、敬称略):大人向けのアニメが増えましたよね。ジブリ映画を大人も観るようになって、というか、子供のとき観ていてそのまま引き続き観るようになって、その流れから大人向けも増えた気がします。細田守監督や新海誠監督の作品など……。
鳩岡:そうそう。2016年の『君の名は。』がすごいブレークスルーだったと思います。あの作品で多くの大人が映画館に観に行きましたよね。
渡辺さん(以下、敬称略):昔よりもアニメの扱うテーマも大人っぽくなってきたんですよね。ジャズがテーマの『BLUE GIANT』とか。『このテーマだったら、刺さる人は必ずいるよね』っていうところに向けてボールを投げられるようになったのではないかなと。
妹尾:子ども向けアニメも、大人が観ても面白かったりしますよ。私は、子育て期に『アンパンマン』シリーズの映画は全部観ましたが、お気に入りがいくつかあって。『だだんだんとふたごの星』と、『勇気の花がひらくとき』なんかは、かなり攻めたつくりで、名作ですよ!
鳩岡:知らなかった。観てみます!
市井の人々の思いや行動を語り継ぐ
——なるほど。では、みなさんの「推し」を紹介してください。
渡辺:はい。日常のほっこり系や、「現実と地続きなアニメ」が楽しいですね。たとえば『犬王』とか。
妹尾:湯浅政明監督ですね!
渡辺:能楽師の犬王と琵琶法師の友魚が演目をして京の町を盛り上げていくのですが、基本的にライブシーンなんですよね。琵琶なのにエレキギターのように演奏するなど、ロックなんです。
妹尾:背面弾きとかね。本当にロック。今まで格式が高いと思われていた能とか猿楽とかが新しくなったんだよっていうのが伝わります。
鳩岡:湯浅監督は、紫綬褒章も受章されているんですよ。『夜明け告げるルーのうた』や『夜は短し歩けよ乙女』なんかもおすすめです。
妹尾:ひとことでいうとアーティスト!映像で遊ぶというか、できることを全部やるみたいな。
渡辺:テーマを言葉じゃなくて絵で語る監督ですよね。
——それこそがアニメーションの醍醐味ですよね。
鳩岡:『犬王』が素晴らしいのは、語り継ぐべきものを語り継ぐ物語だから。
妹尾:確かに!琵琶法師自体が平家物語をずっと語り続けてきた存在ですもんね。
鳩岡:編集やライターという自分が関わる職業も、世の中の物語を繋いでいく立場だと思っていて。そういう部分でも好きなのかもしれない。
渡辺:歴史に残らない名もなき者たちを語り継ぐっていうのもいいですよね。
鳩岡:市井の人々を描いているアニメというのは惹かれますよね。
渡辺:そうそう!そのテーマでいうと、『この世界の片隅に』もすごくおすすめです。
妹尾:漫画家・こうの史代先生原作の!ふんわりしたタッチながら、圧倒的なリアリティで感情に訴える内容ですよね。
渡辺:戦時下の呉市の日常を描いているのですが、片渕監督の徹底した設定考証によって自分たちと主人公・すずさんの世界は地続きなんだと考えさせてくれました。
『犬王』
2022年5月公開。現存する世界最古の舞台芸術「能楽」をテーマにした、能楽師・犬王と琵琶法師・友魚の時を超えた友情を描いたミュージカル・アニメーション。第46回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞。
監督:湯浅政明 Blu-ray&DVD発売中 配給:アニプレックス ©2021 “INU-OH” Film Partners
『この世界の片隅に』
戦時中の広島が舞台となった2016年公開作品。18歳の主人公・すずに次々と訪れる困難、その中で見つけた希望の物語。アメリカ・フランス・イギリス他、海外でも公開され反響を呼んだ。第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞。
原作:こうの史代 監督:片渕須直 Blu-ray&DVD発売中 発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス
時空を行き来するアニメらしいテーマ
——妹尾さんが好きなのはどんなジャンルですか?
妹尾:私は考えてみると、「時空が移動」とか、「隔絶された世界」みたいなものが好き。1984年に公開された『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』という映画は推したい!
鳩岡:押井守監督の。
渡辺:終わらない学園祭前日ですよね。
妹尾:そうそう。主人公の暮らす場所だけが世界と隔絶されていて、学園祭の前日を繰り返し続けるという荒唐無稽な設定なんです。世間から隔絶されて、年月を経ない、ある場所に閉じ込められているという設定の最初かなと。
渡辺:『アリスとテレスのまぼろし工場』もそうじゃないですか?私すっごくおすすめの作品です!
妹尾:昨日、映画館で観ました!
渡辺:1991年のとある田舎町で、製鉄工場の事故を機に隔絶されてしまう若者のお話です。90年代初頭というとインターネットがまだなく、だからこその地方都市の閉塞感。そこでは「変化」を禁じられていて……。隔絶された「こちら側」の日常に亀裂が入ったときに、現実の街が垣間見えるのですがそれがエモい。
『アリスとテレスのまぼろし工場』
『さよならの朝に約束の花をかざろう』の監督を務めた岡田麿里の最新作。製鉄所の爆発事故により外部への出口が閉ざされ、時まで止まってしまった、変化を禁じられた世界で、“恋する衝動”を武器に未来へともがく少年少女の物語。
監督:岡田麿里 配給:ワーナー・ブラザース映画 MAPPA ©新見伏製鐵保存会
——「時空を超える」みたいな設定は、アニメでは多いのでしょうか?
妹尾:多いと思います。それでいうと、『千年女優』というアニメをぜひ観ていただきたい!ある女優が過去を振り返る話なのですが、演じた役を通して、平安時代や未来の宇宙旅行などと時空を行き来する。実際にタイムリープはしないけれど、しているかのような……。
——ロマンチックですね。そういうお話が好きということはロマンチストなんでしょうか?
渡辺:妹尾さん、ロマンチストのロマンの軸が多分恋愛じゃなくって「時のロマン」なのではないかしら?
妹尾:そうかもしれない。
『千年女優』
『パーフェクトブルー』に続く、今敏監督の二作目のアニメ映画。人里離れた土地で暮らすかつての大女優・藤原千代子のもとに取材依頼が届いた。30年ぶりにメディアに応じた千代子が語った、蓋をしていた想い出と秘密とは。
監督:今敏 配給:クロックワークス ©2001 千年女優製作委員会
『クウネル』1月号掲載 写真/柳原久子、取材・文/鈴木麻子、笹本千尋