年末年始はこれを観るべし。映画ライターが語り尽くす「気になる新作映画」の注目ポイント【前編】
年末年始は映画の話題作が目白押し。クウネル世代のベテラン映画ライター2人が、気になる新作を選んで縦横無尽にその魅力を語り尽くします。
目 次
PROFILE
金子裕子/かねこゆうこ
3年前から韓国ドラマにハマっている映画ライター。『環魂』のイ・ジェウクと『恋慕』のロウンがお気に入り。ともに身長185㎝超えの長身イケメン。お正月映画は、『枯れ葉』がオススメ。
杉谷伸子/すぎやのぶこ
フランス映画好きの映画ライター。23年邦画ベスト1は『BAD LANDS バッド・ランズ』。ティモシー・シャラメがお目当てではないけど、『デューン 砂の惑星PART2』が楽しみ。
世界三大映画祭受賞作が年末年始に続々公開!
この年末年始は世界三大映画祭の受賞作が続々公開されるね。まずはヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞に輝いた 『哀れなるものたち』。『ラ・ラ・ランド』(ʼ16)のエマ・ストーンが、『女王陛下のお気に入り』(ʼ18)に続いて、ヨルゴス・ランティモス監督と再びタッグを組んだわ。
エマが演じるのは、自ら命を絶ったベラ。天才外科医の手で蘇生された彼女は、やがて世界を自分の目で見たいという欲望に目覚めるの。
そんな彼女を大陸横断の旅に連れ出すのが、放蕩者の弁護士ダンカン。メグ・ライアンと共演したラブサスペンス『イン・ザ・カット』(ʼ03)で女性人気を獲得したマーク・ラファロが久々にフェロモンむんむんよ。彼が〝超人ハルク〟を演じた『アベンジャーズ』(ʼ12)のロンドン取材で会った時、すごくかわいかったね。
男の色気が溢れているのに、シャイなんだよね。本作でもダンカンのフェロモンでベラも性に目覚めちゃうんだけど、旺盛な探究心であっという間に彼を凌駕する。ベラを手玉にとるつもりの女たらしが、予期せぬ事態に心が壊れるさまをコミカルに演じてもいる。ラファロのいろんな魅力が全開よ。
主役ではないんだが。
もちろんエマもオスカー女優の実力発揮よ。赤ん坊のようなまっさらな状態から性を通して社会の矛盾や問題に気づいていくベラをまさに体当たりで演じてる。
この監督の描くストーリーは、いつも説明しづらいのよね。
今回もね。でも、メッセージはランティモス監督とは思えないほどストレートでわかりやすいわ。ベラを通して女性の自由と平等を謳ってる。
ビザールなテイストでね。
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞!『哀れなるものたち』
アラスター・グレイのゴシック小説を幻想的な映像美と豪華キャストで実写化。ベラに命を吹き込む天才外科医バクスター博士をウィレム・デフォーが静かに怪演。/監督:ヨルゴス・ランティモス 出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ラミー・ユセフ、ハンナ・シグラほか ’24年1月26日より全国公開
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
美食もまた芸術の一つ。料理への愛と情熱に酔う
独自のテイストといえば、カンヌ国際映画祭監督賞のトラン・アン・ユン監督の『ポトフ 美食家と料理人』もそう。
カンヌ映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)の長編デビュー作『青いパパイヤの香り』(ʼ93)など、生まれ故郷ベトナムを舞台にした作品で評価されてきたよね。でも、今作は19世紀末のフランスが舞台。しかも、フランスの薫り溢れる美食家ドダンと天才料理人ウージェニーの話。この監督、食べ物好きだよね。
確かに!『青い〜』の大ヒットで日本でもパパイヤのサラダがブームになったもんね。今回もまた料理がおいしそうなのよ。
そう。最近は時短料理ばかり作っていたけど、大反省。私、悟りました。料理は手間と時間、そして愛を注いでナンボ!
肉も野菜もハーブも屋敷の敷地内で愛情をこめて育てていく。
その厳選素材を細心の注意を払って調理するプロセスがまたエキサイティングよね。食への情熱とおたがいへのリスペクトで結ばれたドダンとウージェニーの関係が素敵すぎ。演じるブノワ・マジメルとジュリエット・ビノシュも、一時期パートナー関係にあっただけに、主人公たちの空気感にリアリティがあるよね。
二人の間には、娘も生まれているしね。
ほんとビノシュって才能のある男に愛されるよね。今回も、そんな天才女優の魅力が充満。
正直、トラン・アン・ユン監督の作品は私にとっては当たり外れがあったけど、今回は大正解。
アジア趣味全開のこれまでの作品とは違って、今回はフランス人としてフランスを撮ってるからね。
『ポトフ 美食家と料理人』
19世紀末。フランスの片田舎の屋敷に暮らす美食家とその料理人を通して描く、食への愛と情熱。フランスの名優共演で魅せる。/監督・脚本:トラン・アン・ユン 出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェほか 12月15日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA
フィンランドの名匠・カウリスマキ、待望の復活
アキ・カウリスマキ監督の『枯れ葉』は、カンヌ映画祭審査員賞受賞作。数年前に引退宣言してたけど、予想どおり帰ってきてくれてよかったわ。スーパーの店員アンサと板金工のホラッパが、惹かれ合いながらもすれ違いを繰り返すラブストーリーよ。カラオケバーで出会った瞬間に、おたがい一目惚れ。中年なのに純情なの。赤や青をアクセントにしたインテリアも、北欧らしくてオシャレだし。すごく好き。
一目惚れなのかな?気になっただけかと。その後、偶然の出会いを重ねて、運命を感じたみたいだけどね。そうしたささやかな出来事の積み重ねで登場人物たちの気持ちの移り変わりを浮かび上がらせるあたりはカウリスマキっぽいね。
音楽の使い方もね。いいタイミングでベスト・チョイスな曲が流れるの。カラオケ・スナックのお客が生バンドで歌うフィンランドの国民的ラブソングとか、ラジオから流れる往年のヒット曲「マンボ・イタリアーノ」とか。歌詞が二人の心情とシンクロして絶妙だったわ。
このへんの選曲といい、タイミングといい、センスが抜群だよね。「カラオケに行こう」と出かけた先がカラオケ・ボックスじゃなくてびっくり。日本とはスタイルが違うのね。そして、ひときわ心に残るのがときおりラジオから流れるウクライナ侵攻のニュース。今という時代と平和へのカウリスマキ自身の願いを映し出している。カンヌでの受賞は、このメッセージへの共感も大きいと思う。
そんな混沌とした時代でも、愛は芽生えて育っていくという中年の恋物語に、ほっこり。極上の後味よ。エンディングにダイレクトにシャンソンの名曲『枯葉』を使うのもアキちゃんならでは!
カンヌ国際映画祭審査員賞!『枯れ葉』
フィンランドの首都ヘルシンキ。スーパーの店員アンサと板金工ホラッパが織りなす、人生最初で最後の恋をユーモアと音楽をちりばめてハートフルに。/監督・脚本:アキ・カウリスマキ 出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、ヤンネ・フーティアイネンほか 12月15日よりユーロスペースほか全国公開
© Sputnik Photo: Malla Hukkanen
現実と虚構のはざまに浮かび上がる“真実”
『最悪な子どもたち』 はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ(最高賞)受賞作。フランス北部の街を舞台にした映画の撮影現場を通して描く、ひと夏の物語。登場するのは問題だらけの子どもたち。撮影地の学校や児童養護施設で行われたオーディションで選ばれた子どもたちが演じてるんだけど、彼ら自身もまたそれぞれに問題を抱えているの。
本人たちの私生活が、役柄に投影されているそうよ。素人の彼らが、監督や撮影スタッフとの交流や演技体験を通して少しずつ成長し、自分を受け入れていく姿がリアルだったし、みずみずしいよねぇ。
子どもたちのオーディション風景から始まるから、最初はドキュメンタリーかと思ったわ。あれが演技だなんて、選ばれた4人の子どもたちは恐ろしすぎる。
そうね。監督のインタビューを読むと、アドリブなしですべて脚本通りに演じていたそうだから。それにしても、才気煥発な若手監督コンビのリーズ・アコカ&ロマーヌ・ゲレ。フィクションをドキュメンタリー風に撮るのは今どきの流行りだけど、本作は時間をかけて丁寧に仕上げた脚本が斬新だったのかも?
モキュメンタリーとか、フェイクドキュメンタリーと呼ばれるスタイルよね。『容疑者、ホアキン・フェニックス』 (’10)みたいにアメリカ映画だと実はフィクションだってわかりやすいけど、これはどちらなのか区別がつかない。そこが芸術的な感じ?
カンヌの栄冠もそれで獲得したんじゃないかなぁ。
カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門グランプリ!『最悪な子どもたち』
フランス北部にやってきた映画の撮影隊とオーディションで選ばれた子どもたち。ドキュメンタリー・スタイルで描く彼らの交流から浮かび上がるものは?/監督:リーズ・アコカ、ロマーヌ・ゲレ 出演:マロリー・ワネック、ティメオ・マオーほか 12月9日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©Eric DUMONT -Les Films Velvet
『クウネル』1月号掲載 イラスト/長嶋五郎
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『クウネル』No.124掲載
あの人が、薦めてくれた映画
- 発売日 : 2023年11月20日
- 価格 : 980円 (税込)