家は3度建てないとわからないと言われますが、これまで自分のために建てた家は7軒。そんなパワフルな女性〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーの井手しのぶさん。井手さんの家づくり顛末を6回にわたりお届けする連載第3回目・前編。4軒目に建てた箱根の別荘についてのレポートです。
オンとオフのメリハリをつけたくて
1999年、箱根に別荘を建てた。
世の中のバブルはとっくに弾けていたのに、井手しのぶさんの会社のひとりバブルはそのころが頂点。
さかのぼること3年、自分でデザインした自宅と友人の家が思わぬ評判を呼び、ホームビルダーとして会社をスタートさせた。直後に湘南エリアで配布されていた住宅関係のフリーペーパーに広告を出したところ、ナチュラルを前面に打ち出した家づくりの人気に火がついたのだ。
「パインの無垢材を使った床に、当時まだ珍しかった珪藻土の塗り壁という自然素材の家が注目されたんです。依頼が次々と舞い込み、休日返上で働きました。1日に4組ほど打ち合わせをこなし、寝る間も惜しんで設計。まだ若かったし、自分たちの会社だし、とにかく仕事が楽しくて」
でも息つく間もなく働き、三、四十軒の家を竣工させたころ、少し自らの生活を見直したくなった。当時住んでいた鵠沼の家はオフィス併設だから、家といえども気は休まらないのだ。
「ちょうどその時期に息子のママ友が箱根の宮城野に別荘をもったんです。休みに遊びに行き『あ、これだ!』と思い立ちました。別荘があれば生活にメリハリができそうな気がして。しかも、うちは遅れてきたバブルの真っ最中。別荘建てちゃおうかと(笑)」
予算をたっぷりつぎ込み、贅沢なつくりに
さっそく行動を起こし、仙石原に300坪の土地を見つけた。土地代は約1千万円。他のエリアより安かったうえ、愛犬を自由に遊ばせられる自然豊かな環境も気に入った。建てたのは2×4工法の木造2階建。真っ白の外観にスペイン瓦の屋根、たっぷりとった窓には米・アンダーセン社の2重サッシを採用するなどリゾート感満載。
「とにかく贅沢につくりました。お風呂が好きだから、まずは銭湯みたいに大きな浴室。庭に面したダイニングルームは窓がいっぱい並ぶデザインにしたくて、そこだけ在来工法をミックスしました。夏は窓を開けると風が通って涼しく、エアコン要らず。その代わり冬は〝しばれる〞という表現がぴったりの寒さですから、ランニングコスト無視で床暖房はマスト。今は床暖対応の無垢フローリングもありますが、当時はなく、とはいえ合板にはしたくなかったので、那智石という玉砂利の一種を敷き詰め、土間スタイルに。土足で入ってもモップで簡単に拭き掃除できるのも便利でした。今なら普通にモルタル仕上げを選んだと思いますが、あの時はとにかくバブル感覚。税理士から『1週間で1千万円使ってください』なんて言われて、自転車でベンツを買いに行くような時代でしたから」
鵠沼の自宅でも愛用し、すでにパパスホームの定番スタイルになっていた薪ストーブは箱根でも大活躍。選んだのは北欧ノルウェーの老舗ブランド
「ヨツール」のもの。周辺の散歩道には倒木がたくさんあり、焚き付けのための枝拾いには困らない。家具は、フィリピンのセブ島に行った時に素敵な店を発見して、リゾートスタイルのものをそっくり買い付けてきた。
→【女ひとりで家を建てる③後編】に続く
■■これまでの記事 ■■
◎【女ひとりで家を建てる①前編】自分のために7軒もの家を建てた女性の家づくりの記録。
◎ 【女ひとりで家を建てる①後編】海のそばに住む夢を実現すべく家を建てたものの……。
◎ 【女ひとりで家を建てる②・前編】自分の家を7軒も建てるまで色々ありました。
◎【女ひとりで家を建てる②後編】3軒目の家を建てたとき、家づくりの会社が始動。
『ku:nel』2016年7月号掲載
取材・文・構成…佐々木信子(tampopo組)