料理研究家の門倉多仁亜さんが東京での暮らしをたたんで、鹿児島の家に引っ越しました。都会の真ん中から、地方都市への初めての移住、そこにはどんな発見があったのでしょうか。
引っ越した先は、いずれここに住む日が来るからと、10年近く前に夫の実家の土地に建てた一軒家。お正月や夏休みなどに帰省はしていたけれど、1週間ほどを過ごして、東京へとんぼ返りでした。しかし夫のリタイア、コロナでの料理教室のキャンセルなどがあって、本格的に移ることを決めました。
「よく決心したね、大丈夫なの?と友達は心配してくれましたけれど、私は別に大丈夫なんです。今は宅配が発達しているし、つながりたい人とはズームやスカイプでつながることができる時代ですよね。この間もドイツに暮らす妹とスマホ越しに一緒に散歩をして、お喋りを楽しんだばかり」
いろいろな技術の進歩によって、この十数年で、住む場所の選択肢は大きく広がったのです。
インテリアセンスが抜群の門倉さんの、この土地の風土に合わせて建てた平屋の素敵な住宅が、これからの暮らしの本拠地となりました。
「ここに引っ越してきて、日々感じるのは空が広い、ということ。高い建物はないし、こんなに身近に自然を感じながら暮らすのは初めてなんです」
東京でのように、途中にカフェで一息、というわけにはいかないけれど、
季節の変化を感じながら、大空の下での散歩は気持ちがいい。
車で30分ほどのところには、お気に入りの美しいビーチがあって、夫婦ふたりで、あるいは友達と、こちらもお気に入りの竹かごにランチを詰めて出かけます。この日のお弁当は簡単にサンドイッチと豆のサラダ。波の音に耳を傾け、頬に潮風を受けながら極上のランチタイム。なんだか命の洗濯ができそうな時間です。
家がある鹿屋市から鹿児島市へ出かけるときは、フェリーで鹿児島湾を横
切って。船上から望む桜島はやはり土地のシンボル。その堂々たる姿に惹
かれるそう。
「こんな豊かな場所に移ってきたんだし、山登りまでいかなくても、軽めのトレッキングにトライしてみようかな」
後編に続きます。
門倉タニア/かどくらたにあ
料理研究家。日本人の父、ドイツ人の母の2つのルーツを持ち世界各地での暮らしを経験する。長く東京で料理教室を主宰してきた。
『タニアのドイツ流 心地いい暮らしの整理術』(三笠書房)など著書多数。
『ku:nel』2021年1月号掲載
写真 門倉多仁亜/取材・文 船山直子