世界中を旅して写真を撮り続ける、在本彌生さんのアンテナにかかった3冊。【私の読書時間】

在本彌生さん

著名人の方にクウネル世代におすすめの本を教えてもらう「私の読書時間」。今回は、写真家・在本彌生さんにお話を聞きました。

PROFILE

在本彌生/ありもと・やよい

写真家

東京生まれ。アリタリア航空で客室乗務員として勤務中、写真と出合う。2003年に初個展。2006年より写真家として本格的に活動を開始。世界各地の衣食住に根づいた美を追いかけている。著書に『リトアニア リトアニア リトアニア!』など。

戦争を考え、詩を読み、 現状を切り開く絵に感嘆。

リトアニアの澄んだ風物や、インドの木の枝で揺れるミナ ペルホネンの布、アイヌの木彫りの熊……。在本彌生さんは世界中を旅して、その土地の衣食住に根ざした写真を撮り続けています。「本に関しては雑食で、いろいろなジャンルの本を読む」そうで、セレクトも、広く張りめぐらしたアンテナにかかった興味深い3冊が並びました。

ひとはなぜ戦争をするのか

『ひとはなぜ戦争をするのか』
A・アインシュタイン、S・フロイト

訳/浅見昇吾

アインシュタインが「人間には破壊への衝動という本能がある」と指摘すれば、フロイトは「権力者の強大な力には団結の力で対抗」と返信。「当時の二大知性の対話が興味深い」。講談社学術文庫

1冊目は『ひとはなぜ戦争をするのか』。アインシュタインは、第1次大戦後、国際連盟から「今最も大事だと思う事柄について、一番意見を交換したい相手と書簡を交わしてほしい」と依頼を受け、フロイトを相手に選びました。テーマは「戦争」です。

「さまざまな国で写真を撮っていると、その国の歴史に触れることになり、歴史には多くの場合戦争が暗い影を落としています。ウクライナやイランで戦争が起きている今、戦争を未然に防ぐにはどうしたらいいのか、漠然と考えているとき、この本と出合いました。当時と今とでは、人間の権力欲など変わらない部分もあれば、国際機関の在り方のように事情が変わった部分もあります。書簡形式で読みやすく、100ページほどの薄い本なので、戦争について考えるひとつのきっかけとしてお薦めしたい」

ウンベルト・サバ詩集

『ウンベルト・サバ詩集』
ウンベルト・サバ
訳/須賀敦子

映画を入り口にイタリアが好きになり、アリタリア航空に勤めた在本さん。「イタリア語は韻が踏みやすく、イタリア人には詩的な言語感覚があり、詩作に向いているように感じます」。みすず書房

2冊目の『ウンベルト・サバ詩集』は、イタリアを代表する詩人その人よりも訳者の須賀敦子さんに惹かれたそう。

「自分でエッセイを書くときのお手本にしたいぐらい、須賀さんの文章は心にしみます。恋心や市井の暮らしを詠った詩集は須賀さんと夫ペッピーノさんと二人の愛読書でもあり、ぜひとも読みたかった1冊。ユダヤ人の血を引くサバはイタリアではマイノリティで、やはりイタリアで異邦人だった須賀さんと共通する心情があったのかもしれません」

わたしはなれる

『わたしは なれる』
サンギータ・ヨギ
訳/小林エリカ

白黒で描かれた絵に後から蛍光色をのせ、さらにポップな印象に。「彼女の母親の絵はもっと緻密。比べると、サンギータの絵はのびやかで今っぽい。そこがいいんです」。green seed books

3冊目の『わたしは なれる』はビビッドな絵が印象的なアートブック。原本はハンドメイド絵本で知られるインドの出版社タラブックスから出版されました。

「著者のサンギータさんは25歳で、すでに3人の子どもを持ち、嫁いだ家で一番年下のため、親戚一同30余人分の食事、洗濯、掃除と家事全般を引き受けています。そんな状況にありながら、おしゃれをしたい、旅に出たい、踊りたいと自分の願いを、パワフルな絵で表している。訳者で友人の小林エリカさんからこの本を紹介されたとき、感動して、この人のところへ行かなければと強く思いました」

サンギータさんとやはり画家の母親は、この秋来日する予定で、在本さんは「インドへ迎えに行きながら、その土地での彼女も撮影したい」と計画しています。サンギータさんの目に今の日本はどのように映り、在本さんの写真はどのように彼女をとらえるのでしょうか。

クウネルchoice 新刊ガイド

野馬追いで会いましょう

『野馬追(のまおい)で会いましょう 相馬の馬文化と震災後の日常』星野博美

1000年続く祭事を追いかけ
震災後の浪江町へ。

海外で土着の馬に乗ってきた著者が日本の馬文化「相馬野馬追」に着目。震災後の福島県浪江町で出会った「平本家」の人々と祭事を追いかけます。祭りに注ぐ変わらぬ情熱と重い現実が胸に迫ります。集英社新書 1,210円

HI王国

『王国』湊かなえ

登場人物9人の視点で
描かれるミステリー。

仲間の夢の象徴「海の王国」が形になりかけたとき、訪れた死は事故か殺人か。謎ときでグイグイ読ませ、美しい海や新鮮な魚料理の描写で惹きつけ、自然と環境保護を考えさせる。作者の新境地です。マガジンハウス 1,980円

『クウネル』2026年9月号掲載
写真/目黒智子、取材・文/丸山貴未子

SHARE

『クウネル』NO.140掲載

旅を深める本76冊と歩く、京都。

  • 発売日 : 2026年7月17日
  • 価格 : 1,080円 (税込)

IDメンバー募集中

登録していただくと、登録者のみに届くメールマガジン、メンバーだけが応募できるプレゼントなどスペシャルな特典があります。
奮ってご登録ください。

IDメンバー登録 (無料)