【快適なふたり暮らし/前編】27年間、工夫して心地よく住み続ける木造平屋の家。
家族の形の変化に合わせて、住まいや暮らし方をどうするかはマチュア世代の大関心事。特にふたり暮らしになって転換をうまく実行してきた棚橋真貴子さんに取材しました。
大好きな家は、部屋の使い方を変えてゆったり。
起きるとすぐに障子を開けるそう。「日が昇る頃、谷向こうの丘の家や樹木のシルエットがきれいなんです。月の出も格別」。長女の学習机は身支度用に活用。この土地に育っていたままの梅が見える。遅咲きな古木。
切妻屋根の木造家屋は、かつては雑木林に覆われていた多摩の丘陵地に建ちます。棚橋真貴子さんが夫と新居づくりを志した約30年前、ここには簡素な古いモダニズム住宅があり2人はその凛とした佇まいに心酔、家の精神を継ぎたいと思ったそう。夫婦で戦後の住宅の歴史など建築関係の本を読みあさるうちに、吉村順三の教えを受けた建築家、田中敏溥さんに出会い設計を依頼しました。
収納を兼ねた間仕切りで空間をゾーン分け。左手奥ダイニングのテーブルは裏庭に抜ける窓の高さと水平に合わせられている。『レ・クリント』のスタンドライトなど間接照明だけが12畳相当のリビングの光源。
「障害をもつ次女の心身にやさしく、子ども3人と夫婦が楽しく暮らせるような家にしたいと希望。細かい注文をしたわけでもないのに思いをはるかに超えた素敵な家になった!と嬉しくて嬉しくて」
作り付けのベンチや北欧家具が置かれたリビング。ナラ材の床は「人と犬の足にやさしい」。
平屋の床はすべてフラット。引き戸の開閉で開放感と個室感をスイッチできるゆるやかさ、屋根と同じ傾斜の天井は高く家のダイナミズムも漂わせます。木材や漆喰壁は27年分ツヤや枯れをまとって家族の光景をやさしく包み、シンプルさの中を清涼な風が抜けて……。家は家族の時の流れを見つめてきました。
キッチンはリビングにいる家族の姿が見られて安心感がある。収納豊富。
「次女は10年前に亡くなったんです。その後、長男と長女が独立。家族が減ってからは、夫婦ともにいる時間とそれぞれの過ごし方に合わせ、部屋や家具類に新しい用途を振り分けたり、自然に家のマイナーチェンジを繰り返しています」。構造的な変更はテラスを広げたくらい。
テラスはリビングの延長のイメージで設計され一部がせり出したような形だったが、7年前にせり出しを広げた。天気がよい日は食事やお茶を楽しむ。愛犬・ルチアもくつろぐ。深い庇や、暖炉の煙突もうかがえる。
棚橋真貴子さん宅の間取り図。
1998年に完成。子ども部屋3つとLDK、主寝室というそれだけだとふつうに聞こえる構成の130平米。実は6畳のユニットを連ねた間取りになっているなど合理性が潜み奥が深い。
PROFILE
棚橋真貴子/たなはし・まきこ
主婦 63歳
大学を卒業、美術館勤務の後、結婚、1男2女を育てる。子育てが終わってからは乗馬やバレエを趣味としている。『クウネル』別冊でモデルを務めたことも。
『クウネル』2026年5月号掲載
写真/木寺紀雄、イラスト/丹下京子、取材・文/原 千香子
SHARE
『クウネル』NO.138掲載
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