文具王・ 高畑正幸さんが選ぶフランスの文房具。「品質や機能では語れない価値があるんです」

フランスの文房具

『ロディア』、『ビック』など日本でもなじみ深いブランドがあるフランス発の文房具。文房具をこよなく愛する文具王 高畑正幸さんのコレクションとともにその魅力を伺いました。

機能や効率では語れないアナログの素晴らしさがある。

文房具にまつわる幅広い知識を持つ高畑正幸さん。歴史的な視点で見ると、フランスは文房具の発展に深く関わっていると言います。

「今、世界中で使っている紙は木材パルプからできていますが、昔のヨーロッパでは麻のボロ布などが原料に使われていたんです。ヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を実用化して紙の需要が高まると、当然ボロ布では足りなくなってくる。そこで18世紀初頭、フランスの科学者ルネ・レオミュールが、スズメバチが木の繊維から巣を作るのを見て、木材で紙を作れることに気づくんです。

また、紙を大量生産できるようになったのは、18世紀後半にフランスのルイ・ロベールが連続抄紙できる機械を発明したことによるもの。僕らが当たり前に使っているメートル法のものさしも、フランス革命によって結成された国民議会が定めています。そして今の鉛筆があるのも、1795年に黒鉛と粘土を混ぜて焼成する方法を発見したニコラ・ジャック・コンテのおかげ。実は今の文房具はフランスの恩恵を受けている部分がたくさんあるんです」

フランスの文房具

1 /プロのアーティストも愛用する製紙メーカー『キャンソン』。パステルに適したミ・タント紙のスケッチブック 2,178円(世界堂新宿本店03-5379-1111)
2 / ニコラ・ジャック・コンテは画材用パステルも考案。『コンテ ア パリ』のカレ・コンテ 2,024円(世界堂新宿本店03-5379-1111)
3 /奇抜なデザインが特徴の『マペッド』の4色ペンとコンパス。(高畑さん私物:以下私物)
4 /右の〈ビック・オレンジ〉(私物)は、現在は透明オレンジの〈クリスタル オリジナル ファイン〉110円(ビックジャパン0120-768-030)にリニューアル。その左のゴールドとノック式のボールペンは私物。
5 /『クオバディス』のエグゼクティブノート赤 5,060円、青 5,280円(クオバディス・ジャパン03-3411-7122)
6/ 万年筆のインクを吸い取る ビュバー。『ビック』のノベルティとして配られたもの。(私物)
7/インクとシーリングワックスのブランド 『エルバン』。金の微粒子入りの アニバーサリーインク1670 50ml ¥4,400、15ml 2,090円(クオバディス・ジャパン03-3411-7122)

ブランドのヒストリーにも詳しい高畑さんに、代表的な文房具やお気に入りを教えてもらいました。
『ロディア』のブロックメモは世界中で有名ですが、方眼ノートが日本で広まったのも『ロディア』人気がきっかけだと思います。紫の濃い罫線が特徴ですが、日本では薄い罫線が好まれる傾向があり、最近は罫線の色が薄いタイプも登場(写真12)。罫線で言えば、『クレールフォンテーヌ』のセイエス罫線ノート(写真9)もフランス独自のものです。2㎜間隔の横線と8㎜間隔の縦線を組み合わせた方眼で、フランス語を美しく書くためのもの。日本でもマス目に十字が入った漢字練習帳がありますが、それと同じような役割ですね。

また『クオバディス』は1952年にマルセイユで誕生した手帳ブランド。1週間を見開きにまとめ、時間軸で縦割りにしたアジェンダプランニングダイアリーを世界で初めて発売。創始者で医師のフランシス=ジョルジュ・ベルトラミがフォーマットを考案しました。今ではスタンダードなバーチカルタイプの手帳も、フランス生まれなんですよ」

世界初の使い切りボールペンを発売した『ビック』にも思い入れが。「それまでは万年筆と同様に高級品だったボールペンを安価な使い切りにしたことで、爆発的にヒット。1950年代の当初からいまだに形は変わっていないんです。一時は低粘度インクに変更していましたが、現在日本で発売されているモデルは、あえて旧来の粘度の高い、重ための書き味に戻しています。この独特の書き心地が好きなファンは多いですね」

品質や機能では語れない価値がフランスの文房具にはあると言います。
「世界で最も実用的で高品質なボールペンがほしいと言われたら、迷わず日本製品をすすめます。でも、文房具にはデザインがかっこいいとか、手に持った感触が好きとか、面白いから持ちたいという側面もある。フランスは見た目が素敵であることの価値を知っている国。効率や性能だけを求めていないんですよ」

フランスの文房具

8/1928年創業のオフィス用品ブランド『エクザコンタ』。紙のファイルはゴム留めタイプで配色もおしゃれ。532円(インテリアス072-665-6076)
9/『クレールフォンテーヌ』のセイエス罫線ノート 330円(クオバディス・ジャパン03-3411-7122)
10/プロヴァンス生まれの絵の具メーカー『ペベオ』の布用マーカー 330円(ペベオ・ジャポン078-414-7267)
11 /スタイリッシュな『ウォーターマン』の万年筆。首軸一体型のペン先が特徴的な カレン ブルーCT 66,000円(ウォーターマン/ニューウェルブランズ・ジャパン
12 /
表紙に合わせたライトブルー罫、ライトピンク罫を採用した 新しいコレクション。ブロックロディア カラー ズ大・660円、中・385円、小・275(クオバディス・ジャパン03-3411-7122)

『ウォーターマン』の万年筆(写真11)も、まさに見た目で選びたくなる一品と高畑さん。

「専門家の僕が言うのも変ですが、今やスマホやパソコンでなんでもできるから、文房具はなくても事足りる時代なんです。それでも文房具を使いたいと思うのが人間の気持ち。クラシックカーに乗っている人は単に早く移動したいのではなくて、その車に乗って走ること自体が楽しいわけで、同じ意味で文房具にもデジタルにはないよさがあり、手書きの手紙をもらったらやはり嬉しいんですよね。アナログって素敵よねと堂々と言えるところに、フランスのエスプリを感じます」

お話を伺った方

高畑正幸/たかばたけ・まさゆき

高畑正幸/たかばたけ・まさゆき

文具王 

文具メーカーの商品企画・マーケターを経て独立。『TVチャンピオン』(テレビ東京系)「全国文房具通選手権」で3回優勝し、文具王に。文房具の情報発信や企画、コンサルティングを行うほか、WEBマガジン「文具のとびら」編集長としても活動。

『クウネル』2026年1月号掲載 写真/加藤新作、スタイリング/今田 愛、取材・文/矢沢美香

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『クウネル』NO.136掲載

なにしろ「フランスびいき♡」なもので

  • 発売日 : 2025年11月19日
  • 価格 : 1,080円 (税込)

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