【60代の大人旅エッセイ】プランは柔軟に、ひとり行動も楽しい!上高地&安曇野と雑貨店をめぐる松本

自分自身の好きなものや興味のあることを熟知するマチュア世代だからこそ、旅も豊かにマイスタイルで。そんな人生後半の旅のかたちをテーマにした『60代 大人旅の愉しみと工夫』をピックアップ!著書『60代大人暮らしの衣食住』が人気の主婦・小暮涼子さんによる新作エッセイです。
目 次
ガイド本ではない、「心が豊かになる人生後半旅」エッセイ

著者 小暮さんによる写真と文で綴り、飾らない語り口と美しい写真も魅力!
2泊3日の国内旅行モデルケースや日帰りお散歩旅、旅の持ち物、着回しコーデなど、著者 小暮さんの旅行スタイルを存分に感じられるエッセイ『60代 大人旅の愉しみと工夫』。体力と費用を抑えつつ、60代がいかに旅行とお出かけを楽しむか、その知恵と工夫が盛りだくさんです!
今回は〈クウネル・サロン〉の読者のために、本書の中から一部記事を抜粋して前後編でお届けします。前編は、最近のいちばんよかった旅行先として小暮さんがセレクトした「上高地・安曇野・松本旅」について。
※これより下の記事は『60代 大人旅の愉しみと工夫』(主婦と生活者)からの抜粋です。
〈上高地〉大自然に身をまかせて
あるとき、編集の方から「ここ最近の旅行で、いちばんよかったところはどこですか」と聞かれて頭に浮かんだのは、長野県松本市にある上高地の澄んだ空気でした。
上高地に行くのは三度目。マイカー規制のため奥飛騨温泉に前泊し、早朝バスで上高地ビジターセンターまで行くのがいつものコースです。バスを降りて朝陽にキラキラ光る梓川沿いを歩き、河童橋近くのホテルに荷物を預けたら、いよいよお楽しみのハイキングです。

立枯れの木の向こうに広がる、生き生きとした明神池の景色。ちょうどいい具合に大きな石があり、しばらく座って眺めていました。
目指すのは明神池。途中には美しい湿原や渓流、大好きなシダやたくさんの種類の苔もあるので、写真を撮ったり近くで見たりと大忙し。また、7月初旬のこの時季は白いカラマツソウもいっせいに咲いていて、まるで夢の中にいるようなんです。

上高地を訪れたことで初めて知ったカラマツソウ。
明神池に着き、美しい池の景色をゆっくり眺めたあとは、奥飛騨温泉の宿で作っていただいた“おにぎり弁当”でお昼ごはんです。(これが、とっても美味!)
そのあとは河童橋近くのホテルに戻り、翌日の出立までのんびり過ごして。昼間は観光客でいっぱいの河童橋あたりも、夕方の最終バスが出てから朝までは、静かな時間が流れます。そして、この地での最後のお楽しみは目の前に穂高連峰を望むテラスでの朝食。前夜からの雨が上がったことは本当にラッキーでした。

河童橋近くにある「上高地ホテル白樺荘」の朝食ビュッフェ。穂高連峰の景観もごちそうのひとつ。
〈安曇野〉グズベリーハウスに魅了されて
梓川のせせらぎに別れを告げて、次に向かったのは安曇野の碌山美術館です。ガイドブックで見た美術館の建物に惹かれて訪れたのですが、行ってみると美術品はもちろん敷地内のすべてが魅力的で始終ニヤニヤ。なかでもグズベリーハウスと命名された休憩室の建物の造りがドアやドアノブ、窓の形もかわいくて!どんな方がつくったのか案内書きを見てみると「地域の教員、高校生、中学生の奉仕作業によって建築されました」とあり、いたく感激したものです。

碌山美術館。青々としたツタが絡まり塔の先端には不死鳥が。

グズベリーハウスの窓のかわいらしさといったら! どんな造りなのか、鼻がつきそうになるほど近づいて観察しましたよ。
20年前、隣に住んでいた長野出身の友人が「もし長野に戻るとしたら松本に住みたいな」とよく話していたのが印象的で、松本は私にとって憧れの地でした。今まで上高地の行き帰りに立ち寄ったことはありましたが、せっかくだからゆっくり散策してみようと、今回は松本にも1泊することにしました。
そんなわけで移動途中の安曇野でもたっぷり時間が取れ、碌山美術館では展示だけではなく、建物の意匠をすみずみまで見学できたのは本当によかったです。メインの碌山館のほかに、杜江館、第1第2展示棟、前出のグズベリーハウスなどいくつもの建物が点在していて見どころもたくさん! とりわけ第1展示棟では、真ん中に配置された彫刻をぐるりと取り囲むようにして壁に絵画が展示されており、その上にある無数の窓からさす光の中での鑑賞が新鮮でした。

碌山館の本棚は私とほぼ同い年(笑)。本の並びまで美しかったです。

現在は倉庫となっている「美術の倉」の屋根には木製の十字架がズラリ。レースのようなふち飾りとの取り合わせも絶妙です。

鉄製のドアノブは、なんとヤモリの形。ぼこぼこした壁は“うろこ壁”と呼ぶそうですよ。鉄格子の窓さえかわいく見えて不思議。
〈松本〉ひとり散歩でお店めぐり
安曇野をあとにし、午後の早い時間に松本に到着。旧開智学校に向かいましたが残念ながら修復工事中で、門のすき間から覗きこんで見学終了(笑)。ホテルにチェックインして近くのカフェで冷たいものを食べたら、いつもの“解散”です。運転で疲れた夫は宿でひと休み、私は楽しみにしていた中町通りのお店めぐりへ出発です。
初めての松本で民藝のお皿を買った「ちきりや工芸店」は、あいにく定休日。でも気をとり直して横道に入ってみると、奥に雰囲気のいい雑貨店やカフェを発見。ガイドブックには載っていないこうした出会いが、旅先のひとり散歩のいちばんの楽しみかもしれません。

定休日だった「ちきりや工芸店」を 外からパチリ。

脇道の先にもかわいいお店が。寄植えの植物もいい雰囲気です。
そして、翌朝。まだうす暗いうちにホテルを出て、徒歩5分ほどの松本城に向かいました。澄んだ空気の中、お城の後ろに広がる青い空がだんだん明るくなっていく様はとても清々しく、忘れられない風景となりました。
いよいよ旅の最後、菓子処「開運堂」で“白鳥の湖”というかわいらしいお菓子をおみやげに買って上機嫌で帰途につきます。けれど我が家に近づくにつれだんだんと暑さが......。帰ってからも夏の間、何度も上高地のさわやかさを思い返していました。
PROFILE
小暮涼子(こぐれりょうこ)
子ども3人を育て上げ、リタイアした夫とふたり暮らし。雑貨や道具、おしゃれが好き。Webマガジンでのコラム連載をまとめた初の著書『60代大人暮らしの衣食住』が好評発売中。なにげない日常をつづったインスタグラムも人気。
大人旅のヒントが満載の本、好評発売中!

60代 大人旅の愉しみと工夫
備忘録として始めたインスタグラム投稿がやがてWebの人気連載コラムとなった、主婦・小暮涼子さんによる、シニア旅をテーマにした一冊。「人生後半は消費だけを目的とするのではなく、心が豊かになる物の見方や日々の過ごし方を意識することで幸せを得られる」という、昨今のシニア本ブームの核となっているマインドを旅という切り口で展開。
『60代 大人旅の愉しみと工夫』(主婦と生活者) 1,540円