【住み替え実例】「人生もっと楽しまないと!」と50代後半に海辺の街に移住。働き通しだった40年間を一旦リセット

ライフステージの変化が起こるマチュア世代。これからの家、生き方、どうしていこう?と考え直すタイミングですね。50代後半に都心から海辺の街に住み替えをしたマーケター、小尾由香さんの自宅にお邪魔しました。
葉山の平屋に引っ越し、人生観と生活が一変。
3年半前に神奈川県・葉山に建てた家に都内から移住した小尾由香さん。「都内の賃貸で暮らしていたのですが、年齢や家賃のことなど考えたら、そろそろ今後のことを考えないとね、と夫と話して」家を建てることになりました。

静かな一角に建つ平屋。外壁は耐久性もありながら経年変化も楽しめるレッドシダー。右手玄関前の植栽や庭(左奥)は、アメリカンテイストの庭造りが得意な「鎌倉ロコマート&ガーデン」に植えたい木をリクエストして依頼。初夏には見事なグリーンの芝で彩られる。海から帰ってすぐ使えるように外シャワーも。
鎌倉出身でサーフィンもする夫の理想は、背後が山で眼下に海が見渡せる高台の家。一方、東京で生まれ育った由香さんは都内から離れがたく、高齢になったときに坂道を延々と登る場所は論外でした。なるべく平坦なところを希望し、夫が土地勘のある葉山エリアで土地探し。ここは多少の起伏はあっても高台ではなく、都内では当たり前に点在するコンビニが近所にもあることが、由香さんにとって大きな決め手になったそうです。

平日も家で過ごすことが多い夫婦の食事は、自宅で一緒に。午前中のブランチと早めの夕食の1日2食スタイル。
「11月に越してきてから4月上旬までずっと寒い冬に、バスと電車を乗り継いで片道2時間、往復4時間かけて都内までひたすら通っていました。それも慣れて苦ではなかったんですけど、GW中に地元で葉山ライフを毎日満喫してみたら、人生もっと楽しまないといけないなぁ、と気づいたんですね」と言う由香さん。
「毎日遠距離通勤している場合じゃない!」という思いに至り、何の不満もなかった会社でしたが、GW明け早々に上司に「辞めま〜す」と伝えたそうです。

「二人暮らしではいらないものを突きつめたら、こんなシンプルな空間になった」という家。その中心は「庭を眺めてくつろぎ、多くの時間を過ごす、大好きなリビングルーム」。

玄関方向からのリビングルーム。天井が高いので圧迫感もなく、階段上にはゲストが4、5人来ても余裕で泊まれる広いロフトと、その奥には規格外の広さの収納スペースを完備。
「20歳から40年間ずっと働き通しだったのですが、プツッと糸が切れたようにぽわわ〜んとして何もしない生活を1年間。それはそれで楽しかったです。働くのは嫌いじゃないので、今はまた新しい仕事をしていますが、東京での〝仕事をするために生きていた〟みたいな生活スタイルは、ここにきて一変しました。

適度な広さのシンプルな寝室。壁の色は二人が好きなブルーに。右手奥から約2帖のウォークインクローゼットに通じる。
海でSUPをしたり、近くのハイキングコースから山を登ったり。自然が豊かで、鳥の声が聞こえたり、空や星もきれいに見えるし、マジックアワーとか空の色にもすごく敏感になりましたね。〝家〟は、東京では帰って寝るだけの場所でしたが、ここでは1日を過ごす、夫婦のくつろぎの場所。ファミリーや友達が来たりという楽しみの場所でもあります。あんなに離れたくなかった東京ですが、今はもう戻りたいとは思わないですね」
人生の折り返しはこの家からスタート。

仕事部屋は「探偵事務所」風のイメージでリクエスト。重厚感のあるドアを開けると、ヘリンボーンの床、小さめの窓にブラインド。作り付けのデスクは、右が由香さん、左が夫のスペース。椅子は飛騨の家具で、それぞれ好きな色でオーダーしたもの。階段下スペースはカメラ機材などの置き場所に。
小尾由香さん自宅の間取り図。

82平米、築3年半2LDKの平屋。鎌倉のハウスメーカー、「技匠」が提案するコンパクトでシンプルなパッケージプラン「ちびスケ」シリーズで施工。
PROFILE
小尾由香/おび・ゆか
マーケター 61歳
アパレル企業でファッションブランドのプレスを長年務めた後、現在は異業種のマーケティング職でリモート勤務。フォトグラファーの夫と二人暮らし。
『クウネル』2025年5月号掲載 写真/加藤新作、取材・文/黒澤弥生、間取りイラスト/丹下京子