【迷える50代のファッションメンター・大草直子さん/前編】「私の人生は誰のものでもない。迷い悩んでも離婚を決めました」

ファッションエディター、スタイリストとして幅広く活躍する大草直子さん。話題の新刊エッセイ『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス刊)では、心身ともに大きく変化する50代の女性のリアルな姿が綴られ、多くのマチュア世代から共感を集めています。大草さんがいま同世代に伝えたいこと、そして執筆中に起きた自身のライフイベントについて伺いました。全2回にわたりお届けします。

「自分らしさ」は探すものではなく、自分を掘り起こす作業

新刊エッセイ『見て 触って 向き合って』では、ファッションだけでなく、自身が感じている身体の変化や生き方についても多岐にわたって綴られています。

「20代の頃に興味があったことといえば、99%がおしゃれであとは男の子のこと、みたいな感じだったのが(笑)、年齢を重ねると変わってきますよね。だから、今の私がエッセイで100%をおしゃれについて書くのはちょっと難しいかなと。あと、ライフスタイルの転換もあったので、そういったことをまとめて(編集担当者とやりとりしながら)1年半ぐらいかけて書き上げました」

執筆するにあたり、テーマとなったのは「自分らしさ」。さまざまな経験を重ねてきたマチュア世代が、ふと立ち止まるこの言葉を軸に、今の自分だからこそ書けるもの、書きたいものをじっくりとまとめていく作業は「自分らしさを掘り起こす時間そのものだった」と振り返ります。

「どの本も子供みたいに大切。その中でも今回は、自分を掘り続けたことですごく印象に残る1冊になりました」

「私のイベントやWebメディアで質問を募ると、『自分らしさ』を探している方がとても多いんですね。そして、自分らしさというものを偶像化して、今の自分には何かが足りない、特別なものが必要だと考えてしまっている方も多いように感じます。でも、自分らしさって"探すもの"ではなく、"自分を掘り起こしていくこと"ではないかと。

そもそも、自分らしさに答えなんてあるんだっけ?と思いながら、私もエッセイを書くために自分を掘り起こしてみたら、大変でしたがちょっと面白い体験だったんです。それを内面から美容、おしゃれ、生き方まで全編通してやらせていただいたのがこの1冊です」

時間をかけて自分と向き合い家族と話し合った「離婚」という決断

今夏、2年の別居を経て離婚した大草さん。本の最終章には、そこまでに至る経緯や心情について、「できるだけ事実だけ」を綴っています。

「離婚のことは2年半話し合って来たので、本の話があった時はその渦中でした。それを書いて欲しいと言われたわけではないんですが、1冊を書き終える中で、自分なりの成長や方向転換、あと、子供たちとひたすら話すことで自分と向き合ったところもあったので、(書く上で)ここをうやむやにしてはいけないなとすごく思ったんです」

時間をかけて家族で話し合った結果、紙の上では受理されたものの「正直、みんなが納得しているというのは無いんですよ」と言います。

「今でも子供たちは、きっと思うところがあるだろうし、特に末っ子は感情が爆発することもあるので、そこは私自身の鏡のようなものだと思って受け止めています。ただ、現状では元夫が一番幸せそうで、これは綺麗ごとではなく、私も今の彼をすごく尊敬しているんですよね。

とはいえ、彼は彼で思うところがあるかもしれないし、子供たちがこの状況に納得するにはもう少し時間がかかるか、最後まで腑に落ちないかもしれない。でも"ごめんなさい、これはあなたの人生ではなく私の人生なんです"という、今はそういう気持ちです」

「時間をかけた流れの中で離婚という形に辿り着いて、紙が受理されたときに"やっと最後の章が書ける"と思いました」

離婚について書くにあたり、家族が周りから興味本位で何か言われたり嫌な気持ちにならないように、そして、他人に対して自分を弁護したり正当化した表現にならないように、本が出来上がる最後の最後まで、何度も文章をチェックしたのだそう。

「真実は家族がシェアしていればそれでいい。ただ、離婚というものを子供の目を通して書きたくなかったんです。例えば、親にとって離れていることが幸せならそれは子供たちにとっても幸せなこと……みたいな話には絶対にしたくないなと。それは違うし、どちらかといえば本当に辛い思いをさせたわけですから。なので、最後まで何度も客観的に読んで、編集者さんにも何度も聞いて書き上げたこの本は、私にとって宝物ですね」

情報で心をざわつかせないためにしていること

リアルな自分の姿を、著書だけでなくSNSやWebメディアでも発信している大草さん。自身もインスタを活用しながら、情報の海に溺れないよう「フォローは27人まで」と決めているのだそう。その真意とは?

「インスタは、毎日たくさん見ています。ただ、自動的に流れてくる情報はとても怖いんですよね。例えば、すごく素敵なライフスタイルをされている方をフォローしていると、自動的にその情報が入って来て、それが出来ていない自分を責めてしまうとか。私なんて今日もウーバー頼んじゃった……とか(笑)。だからフォローはいつも27人前後、見たい情報は自分から取りに行くようにしています」

「溢れる情報の中から何を基準に選ぶかは、自分の判断でしかないですね」

「親しい人のインスタもフォローしていなくて、海外マダムやイルカと泳ぐサーファーの投稿をよく見ていますね(笑)。仕事以外で私が自分から取りに行く情報の基準は、"心がざわざわしないこと"、そして"自分を追い詰めないこと"です」

※後編では、50代の体型の変化とファッション、更年期との付き合い方について伺います。(12/28公開予定)

大草直子/おおくさなおこ

ファッションエディター・スタイリスト。1972 年生まれ、東京都出身。大学卒業後、婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。雑誌『ヴァンテーヌ』の編集に携わった後、独立。2019年にはメディア『AMARC(アマーク)』を立ち上げ、「私らしい」をもっと楽しく、もっと楽にするために、ファッション、ビューティ、生き方のレシピを毎日発信している。
2021年には、「AMARC magazine」を発刊。ファッション誌、新聞、カタログを中心に活躍するかたわら、トークイベントの出演や執筆業にも精力的に取り組む。

見て 触って 向き合って~自分らしく着る 生きる

ファッションエディター、スタイリストとして幅広く活躍する大草直子さんの新刊エッセイ。年齢を重ねファッションや美容の考え方が変わるなかで、「引いたり、足したり」を軸に自分との向き合い方を説く。ファッション、スキンケア・下着選び・メイク・スカルプケアを見直すなど、大草さんが日々実践している大人のTIPS集。

見て 触って 向き合って~自分らしく着る 生きる』(マガジンハウス)
1,650円

撮影/小渕真希子、取材・文/松永加奈

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