【大草直子さんの提言vol.3】更年期の向き合い方、私の場合。美容医療は予算の上限を決めて
ファッションエディター、スタイリストとして幅広く活躍する大草直子さんの新刊エッセイ『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス刊)が話題です。年齢を重ね、体型も心持ちも変化していく50代の大草さんが、「引いたり、足したり」をキーワードに、いまの自分にフィットする美容やファッションについて深く考察。
ファッション、スキンケア・下着選び・メイク・スカルプケアを見直すなど、大草さんが日々実践している大人のTIPS集から、とっておきのアイデアを紹介していきます。
気鋭のファッションエディターが本音で明かしたエッセイ『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス)から、一部を抜粋して紹介します。【大草直子さんの提言vol.2】艶のある素材とドライな素材のミックスで、着こなしは立体的になりますからの続きです。
美容医療は「予算の上限を決める」
私がやっている美容医療は、ボトックスだけです。講談社「mi-mollet」の連載で、斎藤薫さんが「ボトックスは、美容整形ではなく、むしろ、心のメンテナンス」とおっしゃっていました。
あ、ここで私も混乱して調べましたが、美容整形と美容医療は同じ。明確な時期についての記述はありませんでしたが、とあるタイミングで、美容整形は美容医療と呼ばれるようになったようです。不思議なもので、医療、とつくほうが、ハードルが下がる気がするのは私だけでしょうか。
さて、戻ります。そう、私がやっているボトックスは、顔の表情筋に作用することによってシワを薄くしたり、筋肉の目立つ部分(エラとか)に注射することでボリュームダウンさせたり、あとは、肩こりの改善や脇汗を抑えたりするためにも使われます。
「ボトックスを打ったハリウッド女優が、笑っても、全くおでこが動かなくなった」などと揶揄されていましたが、量をごく少量にすれば、そんなことはありません。現に、私は何年か続けていますが、誰からも指摘されたことはないです。
なぜボトックス? 動画やインスタライブの「動く自分」を見てぎょっとしたのが最初。表情の癖なのか、左眉がぐいっと上がる、そして眉間にシワを寄せる。にこやかにファッションの話をしているのに、とても不機嫌に見えたのがショックで始めました。信頼できるドクターと相談し、眉上と眉間にごく少量。
どこまでを美容医療に入れるかは置いといて、糸リフトやハイフ、ヒアルロン酸注射や豊胸、顎を削ったりなんかもありますが、ボトックス以外は今、トライする予定はありません。
生きていれば、顔はたるみます、シワは深くなり、シミは目立ちます。くちびるは痩せ、胸の位置も下がります。
10年前の自分の姿に対抗することに興味はないのと、自分の中でかける予算を決めているからーー。いくらが正しい、間違っているではなく、自分の中でリミットを決める、タガを作る、が安全かな、と思っています。
更年期の向き合い方。私の場合
この原稿を書いているとき、私は51歳。生理が遠くなり、ほぼ閉経かな、というタイミングです。
5年ほど前から、ほてりやイライラ、膣環境が不安定になることからの外陰部のかゆみ、ひどい肩こりなど、あらゆるストレスが引いたり襲ってきたりしていました。が、51歳の誕生日を迎えたあたりで経験した、気分の落ち込みは、なかなかに辛い経験でした。自律神経の乱れからくるものだとはわかっていても、基本メンタルが「高め安定」の私、めったに「落ちる」ことがなかったので、TIPSや対処法がわからなかった。なので、ただ自分を責めたり、周りのせいにしてしまったのです。そして、いつも好奇心旺盛、やりたいことがいっぱいだったのにやる気を失い、まるで、生きることに迷子のようになってしまったことにも、重ねて落ち込み、むしろびっくりしてしまったのでした
更年期は、生活スタイルを見直し、自らの健康状態に目を向ける時期。改める、新たにする、そんなきっかけだな、と思ったのは、最も辛い数か月を過ごし、しばらく経ってからでした。そして、さらに、自分のペースで幸せに生きていくギアチェンジをし、更年期を幸年期にしていくーーだとすると、医療を含めたさまざまなトリートメントは不可欠だなあ、と強く思います。
オバマ元大統領夫人のミシェル・オバマさんや、人気MCのオプラ・ウィンフリーさんも同じメッセージを出し続けています。
「できることはたくさんある。躊躇せずに、試してほしい。なるべく早く」と。
アロマオイルでの気分転換や規則正しい生活、漢方を飲む。
こうしたことももちろん大切ですが、私のように症状が進むと、正直効かない。私がやったことは、女性外来でホルモン値を調べ、最初はサプリメントを飲みました。ただし、それも、閉経を迎える頃になると、効果が薄くなってくる。
次は「命の母」。しばらくはとても良かった。特に気分の落ち込みには効果抜群でした。ただ、それでも対応できなくなってきます。メンタルのぶれに加えて、関節や筋肉に痛みなどが出てきたときに、「あ、これはダメだ」と、合成ホルモンによるホルモン治療を始めました。
これもまた効き目があり、摂り始めて数日もすると、驚くほど体力は復活し、食欲は戻り、気分も晴れやかに。何より、ぐったりとした疲労感も軽減されたのが良かった。しかし! 合成ホルモンの良いところ悪いところを調べていくうちに、ずっとは続けていかれないぞ、と思い始め、また別のクリニックへ。
そうして今は、ヤムイモというイモからできる天然由来100%のサプリメント、DHEA(男性ホルモン、女性ホルモンなど、あらゆる性ホルモンの源)と経皮吸収されるクリームと別のサプリメントでエストロゲンの補充をしています。
合成、天然ーー双方にメリットとデメリットがあるので、予算や病歴、症状の辛さで選ぶことが大事だな、と思います。この本を読んでいる若い世代の方にもお伝えしたいのが、30 代で一度血液検査によるホルモン値を測っておくと良いですよ、ということ。血圧と同じで、自分の値を知っておくことで、閉経間近、更年期症状を緩和するホルモン治療に役立ちます。
早い人だと30代後半から不具合が出始めるのでぜひ。
こうしたことを相談する女性外来が、日本にはまだあまりなく、特に地方に住んでいる方は、なかなか出会えないのが、残念な状況。SNSに寄せられる声の中にも「勇気を出して婦人科の先生に相談したけれど、〝もうそういう年なんだから諦めなさい〞と言われた」「女性外来をやっと見つけたのに、予約を取れるのは数か月先」など、「いやいやいや」と言いたくなる現状がたくさんあります。
もし言葉の選び方や伝え方、考え方など、自分と合わないお医者さんは、替えましょうね。次のクリニックや病院へ行きましょう。ホルモンは、ジェンダーや年齢にかかわらず、私たちの心と体に影響を与えます。しっかりと知識を持ち、何かあったときには相談できるドクターがいて、過度に恐れず、必ず対処法はあるんだ│と、安心できる人が増えるよう、これからも私の体験や情報を伝え続けたいと思っています。
※本稿は『見て 触って 向き合って』(マガジンハウス)からより一部を抜粋・編集したものです。
詳しくは発売中の本書を
見て 触って 向き合って~自分らしく着る 生きる
ファッションエディター、スタイリストとして幅広く活躍する大草直子さんの新刊エッセイ。年齢を重ねファッションや美容の考え方が変わるなかで、「引いたり、足したり」を軸に自分との向き合い方を説く。ファッション、スキンケア・下着選び・メイク・スカルプケアを見直すなど、大草さんが日々実践している大人のTIPS集。
『見て 触って 向き合って~自分らしく着る 生きる』(マガジンハウス)
1,650円
大草直子/おおくさなおこ
ファッションエディター・スタイリスト。1972 年生まれ、東京都出身。大学卒業後、婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。雑誌『ヴァンテーヌ』の編集に携わった後、独立。2019年にはメディア『AMARC(アマーク)』を立ち上げ、「私らしい」をもっと楽しく、もっと楽にするために、ファッション、ビューティ、生き方のレシピを毎日発信している。
2021年には、「AMARC magazine」を発刊。ファッション誌、新聞、カタログを中心に活躍するかたわら、トークイベントの出演や執筆業にも精力的に取り組む。
イラストレーション/原 倫子